【動画考察】問題を維持する会話

問題を解決しようとしているのに、なかなか解決しない、改善しないことがあります。心理職として、クライエントの問題を解決・解消・改善できないのは大きな問題です。

CBTセンターの岡村優希先生のYouTubeチャンネル(おかゆちゃんねる)で、「【認知行動療法】困りごとを維持してしまうコミュニケーション」という動画がありました。その動画を見ながら思ったこと、考えたことなどを書いていこうと思います。

【動画考察】問題を維持する会話

岡村優希先生の「【認知行動療法】困りごとを維持してしまうコミュニケーション」という動画はこちらです。まずはこちらを見てもらって、必要だと思ったら続きを読んでもらいたいと思います。

動画のタイトルでは「困りごとを維持してしまうコミュニケーション」となっていますが、主に扱っているのが「会話」で、サムネイルにも「会話」となっているので、コミュニケーションではなく会話という表現を使っていきます。「困りごと」はどうしようかと思いましたが、「問題」という表現で行こうと思います。

問題を維持するとは?

認知行動療法に限らず、心理療法・カウンセリングというのは何らかの困りごと・問題を解決・解消することが1つの目標になっていると思います。いろんな考え方とかはあると思いますが、何かに困っていて、それを解決したいと思っているのであれば、解決してくれないものにお金や時間、労力などのコストを支払うことに意味がないと言えるかもしれません。

動画ではダイエットのための運動について取り上げています。体重を減らすために運動が重要であることは多くの人がわかっています。でも、それができない、難しいという問題があります。ダイエットだけでなく、健康のために運動をしようとして途中でやめてしまった経験がある人も多いと思います。

この問題(運動ができない、続けられないことで体重を減らせない)を解決するためにカウンセリングを受けているのに、その問題が解決できないでいる状態が「問題が維持されている状態」ということですね。

問題を解決・解消するには、問題が解決・解消に向かうような会話・コミュニケーションが必要になります。子ども向けの遊戯療法などを除いて、基本的に会話を中心としたコミュニケーションを通して変化を促すことになります。しかし、問題を維持するような会話・コミュニケーションが展開されることになってしまうこともあります。

動画の例で言えば、「問題を維持する」とは「運動しない状況か続く」ことですね。

どのような会話が問題を維持しているのか?

動画内で「傾聴?&共感?」というスライドで説明されている会話例を別の視点から見てみようと思います。そのまま使うのはよくないと思うので、似たようなやりとりの例を使います。

会話例

クライエント
「部屋の片づけをしないといけないとわかってるけど、どうしても面倒で、ゲームとか楽しいことばっかりになっちゃうんです。」

カウンセラー
「面倒なことはやりたくないし、楽しいことばかりになってしまいますよね。」

クライエント
「そうなんです!」

何となく微妙な例になってしまった気はしますが、このまま進めます。

クライエントは部屋を片づけないといけないと思っているけど、面倒だから楽しいことをしてしまうということを話しています。これ自体は理解できることだと思うので、カウンセラーも理解を示しやすいと思います。問題はどのように理解を示すのかというところですよね。

このカウンセラーの反応に名前を付けるとしたら、おそらく「同意」ということになると思います。

例えば、このクライエントが家族から部屋の片づけをするように言われていて、その相談をカウンセラーにしているという状況だとしたら、家族に対して「カウンセラーも片づけできなくても仕方ないって言ってた」みたいなことを言うかもしれません。自分の考えにカウンセラーが同意してくれたからこのままでいいんだというような感じですね。

行動分析学的に見れば、クライエントが「〇〇してみよう」と思って行動を変えるということは、ルール支配行動が関係していることになると思います。日常生活で生じてほしい行動を心理療法・カウンセリング内でやってみるみたいなことをするのであれば、随伴性形成行動になるかもしれませんが、基本的にはルール支配行動を期待して会話を展開することになるのかなと思っています。

ルール支配行動、随伴性形成行動が何なのかについては長くなるのでここでは説明しませんが、簡単に言うと、ルール支配行動は言語を介して生じる行動で、随伴性形成行動は言語なしでも経験を通して学習される行動という感じかなと思います。一応『行動分析学 行動の科学的理解をめざして』に書かれている説明を引用しておきます。

ある人が経験した随伴性をその人が言語行動として記述したものを、別の人が自分の3項強化随伴性の弁別刺激としたとき、その記述(された随伴性)を「ルール」と呼ぶことにしよう。そして、ルールを弁別刺激としてある行動が自発され、それが強化子に随伴されるといった経験をすることで、その行動が維持される場合、そうした行動をルール支配行動[rule governed behavior]と呼び、これまで述べてきた自分自身の行動履歴を通じた、通常の3項強化随伴性のもとにある随伴性形成行動[contingency shaped behavior]と区別する(Skinner, 1969)。

『行動分析学-行動の科学的理解をめざして』p.272

※Skinner, B. F. (1969). Contingencies of Reinforcement: A Theoretical Analysis. Appleton Century Crofts.

余計にわかりにくくなってしまった気もしますが、とにかく何らかの言葉(言語行動)が実際の行動に影響を与えることを認めるとしたら、どのような言葉が問題を維持して、問題を解決・解消するのかということになります。

「こうなるのは仕方ない」という問題を維持するような内容の言葉(言語行動)を強化する(増やす)ような反応では、変化のための行動になかなか結び付かないという感じですね。ここで言う言語行動がスキナー的なのか、関係フレーム理論的なのかは僕もわかっていませんが。。。

さらに別の視点から見ると、動機づけ面接のチェンジ・トークとレジスタンス・トークとか、解決志向アプローチのソリューション・トークとプロブレム・トークとかでも説明できるかもしれません。個人的に動機づけ面接と解決志向には共通点があるように感じていますが、説明できるほどの知識もないので、以前に読んだ本を読み返して説明できそうだと思ったら追記しようと思います。

現状維持と変化の間

変わりたいけど変われない人は、現状維持と変化の間で身動きが取れなくなっていると言えるかもしれません。両価性とかアンビバレントとかで表現される状態と言えばいいでしょうか。

弁証法的行動療法(DBT)では、承認戦略と問題解決戦略という相反するものを両立されるために「弁証法」という視点を入れています。この大掛かりな仕組みをACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)では、関係フレーム理論の立場から解決しているんじゃないかと思っています。

「変わりたい、でも(but)、変われない」というのを「変わりたい、そして(and)、変われない」という表現に変更することによって、「変わりたい」(変化)も「変われない」(現状維持)も同時に成立するようにしている感じです。

クライエントの「でも」が、一方に感情や思考、他方に別な感情、思考、あるいは行為さえも位置づけて、両者の間に対立関係を人為的に作り出している場合には、セラピストは、ACTの言葉の約束事を導入して、「でも」を「そして(and)」に置き換えるべきである。

『アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)第2版』p.417

「変わりましょう」だけだと現状維持になっていることに対する非承認になり、現状維持を受け入れるだけだと変わりたい気持ちを非承認することになってしまいます。どちらかだけに注目するのではなく、両方に注目しつつ、変化の方向に目を向けていくような会話が重要なんだろうと思います。

変化のための会話

変化するためにはクライエントに「やってみよう」と思ってもらう必要があります。心理療法・カウンセリング内で起こせる行動の変化であれば、般化を使って随伴性形成行動としての変化を狙えますが、そうでない場合はルール支配行動になるからです。

動画で紹介されているポイント

動画ではいくつかポイントが挙げられていますが、いくつかについて触れようと思います。「※」を付けたところが動画のスライドからの引用です。

重要なのが「できるかもという感覚を引き出すだと思います。その上にある「たとえ話などを用いて想像してもらう」というのが、「できるかもという感覚を引き出す」ための方法になっています。

別のやり方として、「できているところを探す」というものもあるかなと思っています。この記事で出した例で言えば、「少しでもいいから片づけをすることはないのか?」という視点で聞いていく感じですね。例えば、「片づけをすることもありますか?」とか、「全く片づけをしたことがないということですか?」とか、「最近片づけをしたのはいつですか?」とか。

話の流れやクライエントの様子、クライエントとの関係などなどでどのような言い回しを使うかは変わりますが、「片づけをすることがあるのか、あるのであればそれはどんなときか」ということを知りたいわけです。

もし「足の踏み場がなくなってきたら、物を退けたりなどはしますね」のようなことが出てきたとしたら、何らかの条件が揃えば片づけができるという証拠を見つけたことになります。そのようなときになぜ楽しいことの誘惑に負けずに片づけができるのかなどが重要になります。これも「できるかもという感覚を引き出す」ことに繋がると思います。

動画にはないポイント

動画で説明されていたようなことをやって、クライエントが「できるかもしれない」と思っても、それが実際の行動に結びつかなかったり、「できるかもしれないけど、、、」みたいな感じで乗り気にならなかったりすることもあります。

これは、「できるかどうか」と「やるかどうか」の違いだと思います。

預金・貯金が全部で1000万円あれば、1000万円の高級車(諸経費込み)を現金で買うことができます。でも、それを実行する人は少ないと思います。「できるけど、やらない」ということですね。

「できない」と思っていたら「やる」を選択することは難しいので、「できる」とか「できるかもしれない」と思えるようにすることが重要になります。ただ、それだけで「やる」に繋がるかというと、そういうわけではないということです。「できないと思いながらやる」こともできるのですが、その方向はACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)に繋がっていきます。

「できるかもしれない」がなぜ「やる」に繋がるのかというのが、とても重要なポイントになると思います。

「できるかもしれない」と思っているときは、おそらく「やっている状態」や「やった後の状態」をイメージしていると思います。片づけであれば、片づけをしている自分だったり、片づいた部屋だったり。そのイメージが片づけという行動に影響を与えることになります。

つまり、まだ起きていない「片づいている未来」が片づけることの動機づけとして機能するということです。

一応、動機づけについて触れておきます。

行動の理由を考える時に用いられる大概念であり、行動を一定の方向に向けて生起させ、持続させる過程や機能の全般をさす。
(中略)
しかしながら、動機づけ概念の捉え方は、各研究パラダイムによって異なり、確定的なものはない。

『心理学辞典』有斐閣 p.622

有斐閣の『心理学辞典』にはこのように書かれていて、いくつかの立場・理論から簡単に説明されています。

この記事で想定している動機づけは行動分析学的なもので、さらに言えば関係フレーム理論的な動機づけをイメージしています。この辺は説明すると長くなるし、きちんと説明できる自信もないので詳しい説明は省略します。

この動機づけで重要になるのは、それをやることの意味だと思います。その人にとってそれをやることにどんな意味があるのか、もっと言えば、どんなメリットがあるのかということが大事だと思います。

行動分析学的に表現すると、このような感じです。ABCのところが普通の随伴性で、Dは随伴性形成行動に直接的に影響を与えるわけではない時間的に離れたところにある長期的な結果です。すぐにメリットがあるか、将来にメリットがあるか、その両方かと思ってもらえるといいかなと思います。

「こうなったらいいな」というようなワクワクする未来に向かって行動できるといいなという感じですね。この発想は、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)の「価値」に基づいているつもりです。

まとめ

心理療法・カウンセリングでクライエントの問題が解決・解消しない場合、何を原因として捉えるかという問題があります。この「問題を維持する会話」という視点は、その原因はカウンセラー側にあるという考え方が暗に示されているんじゃないかなという気もします。

何かの問題が起きたときに、自分以外の誰かの責任できれば楽になれると思います。心理療法・カウンセリングがうまくいかない原因をクライエントや環境のせいにできれば、カウンセラーの責任がなくなるので、「自分は悪くない」という楽な立場にいられるようになります。実際にカウンセラーにはどうしようもないこともあるので、すべてのカウンセラーの責任にすることはできませんが、まずはカウンセラーである自分に責任があると思って、何かを変えるように努力したいものです。

1.患者はできる限りのベストを尽くしている

2.患者は改善を望んでいる

3.患者は変化に向けて、よりうまく行い、より懸命に取り組み、より動機づけられる必要がある

4.患者の問題はすべて彼ら自身が引き起こしているのではないとしても、彼らはとにかくそれらを解決しなければならない

5.自殺的なボーダーラインの人の現在の人生のあり方は、耐えられないほどのものである

6.患者は関連するすべての状況において新しい行動を学習しなければならない

7.セラピーにおいて患者の失敗はありえない

8.ボーダーライン患者を治療するセラピストには支援が必要である

『境界性パーソナリティ障害の弁証用的行動療法』 pp.141-144

これは『境界性パーソナリティ障害の弁証法的行動療法』に書かれているセラピーの前提です。7番目の「セラピーにおいて患者の失敗はありえない」というのがとても大事だと思っていて、この視点から「問題を維持する会話」を考えると、カウンセラー側が工夫をして問題を解決・解消するような会話を展開するようにしなければならないということなんだろうなと思っています。

そのための方法として、岡村先生は動画の中で「できるかもという感覚を引き出す」ことが重要であると説明しています。おそらく動画にはない重要なポイントがもっとあると思いますし、「問題を維持する会話」だけが重要というわけではないので、岡村先生の他の動画も参考にするといいと思います。