心理職としてカウンセリングもやっている身としては、深刻な行動の問題だとカウンセリングは役に立たないという意見は気になるところです。深刻でない行動の問題ならカウンセリングが役に立つということなのだろうか?という疑問とともに。
心理学や心理職というのは、それを専門としていない人たちから誤解されていると感じています。それは協働するような他職種でも同じだったりすることもあり、「心理学とは」とか「心理職とは」というのをうまく伝えられていないなと思うこともあります。
そういう中で、深刻な行動の問題だとカウンセリングは役に立たないというような意見を目にしました。その意見は心理学のある分野からの意見でした。もしかしたら、その分野を心理学に入れることに問題があるのかもしれませんが。
心理職と言えばカウンセラー、カウンセラーと言えばカウンセリング、みたいなところがありますが、そのカウンセラーは行動の問題を解決するときに頼られることがあります。
それなのに、深刻な行動の問題ではカウンセリングは役に立たないかもしれないと言われたら、どうでしょう?
僕自身はこれに少し疑問もありつつ、理解もできるなと思っています。
深刻な行動の問題にカウンセリングは役に立たないとはどういうことなのでしょうか?
深刻な行動の問題にカウンセリングは役に立たない!?
深刻な行動の問題にカウンセリングが役に立たないというのは、『行動分析的”思考法”入門-生活に変化をもたらす科学のススメ』に書かれていたことです。表現は違いますが、伝えたいことは同じだと思っています。
深刻な行動問題となると、カウンセリングはおそらく治療法の選択肢には含まれないでしょう。(p.107)
『行動分析的”思考法”入門-生活に変化をもたらす科学のススメ』
行動分析学は行動を扱う学問領域なので、行動問題を扱うことは得意と言えます。これはそういう立場からの意見ということを理解した上で考える必要があると思います。
行動分析学では、行動を三項随伴性と呼ばれる枠組みで理解していくことが基本となっています。「先行事象-行動-結果」ですね。
行動問題を扱うとき、問題となっている行動に対して直接的にアプローチした方が効果的であることは確かだと思います。先行事象や結果を変えることで、行動を変えるということです。それは行動問題が深刻であればあるほど、そうなのかもしれません。
『行動分析的”思考法”入門』で挙げられている例は、ゲームに夢中の夫、芝居がかった振る舞いをする彼女、というものです。そこの説明を読めば、言いたいことはよくわかります。
確かに、カウンセリングより行動分析学を使って、随伴性マネジメントを行う方が効果的かもしれません。
誤解されないように説明しておくと、『行動分析的”思考法”入門』ではカウンセリングを否定しているわけではありません。「効果があるか」という視点が重要であるという主張をしています。
私たちはカウンセリングを嫌っているわけではありません。私たちは、人びとを助け、明確な結果を示すあらゆる種類の効果的な治療法を支持します。しかし、私たちは何年もカウンセリングを受けながら、行動や生活状況が少しも変化していない人々をたくさんしています。(p.111)
『行動分析的”思考法”入門-生活に変化をもたらす科学のススメ』
ここからもわかるように、効果的であるということが重要なのであって、カウンセリングが効果的であれば何の問題もないということです。ただ、何年もカウンセリングを受けているのに変化がないということは、その問題に対してカウンセリングが効果的ではないのかもしれないという視点を持つことが必要なのでしょう。
そうは言っても、このような考え方には疑問があります。
カウンセリングと行動分析学(臨床行動分析)
カウンセリング(『行動分析的”思考法”入門』ではトークセラピーと表現)は、カウンセラーとクライエントという関係の中で変化を促していくことになります。その変化はクライエントの日常生活での変化を指しています。
カウンセリングの中で変化するだけでは意味がありません。クライエントは日常生活で困っているのであって、その困りごとを解決するためにカウンセリングを受けているからです。
そして、行動分析学では随伴性が重要なので、基本的にはカウンセリングでの随伴性マネジメントが行われることになると思います。つまり、カウンセラーがカウンセリング内で先行事象と結果を操作するということです。
この辺は機能分析的心理療法の臨床関連行動が参考になると思います。
このように考えると、カウンセリングでの変化を日常生活へどのように般化させるかという問題にぶつかります。あるいは、ルール支配行動によって日常生活での行動をどのように変化させるかという問題ですね。
行動分析学はすべての行動を扱うということなので、随伴性形成行動に加えてルール支配行動も追加されます。
行動分析学の視点から考えれば、効果がないカウンセリングというのは次の2つの問題と繋がっているということだと思います。
- カウンセリング内で身につけた随伴性形成行動が般化していない。
- 日常生活でルール支配行動が生起していない。
日常生活内で直接的に随伴性を変化させられるのであればそれがいいと思いますが、それが難しい場合などはこの2つを達成することが目標になるのでしょう。
深刻な行動問題をカウンセリングで解決しようとするとき、カウンセリング内でその行動問題が変化しているかどうかが1つのポイントになります。変化していないなら般化の問題にすらならないので、まずは変化させようという話になりますね。変化しているとしたら、般化の手続きを考えることになるのでしょう。
もう1つは、ルール支配行動の活用です。ここで臨床行動分析が役に立つと思います。表現を変えれば、関係フレーム理論ですね。
こんな感じに考えれば、深刻な行動問題にカウンセリングが役に立たないのではなく、役に立たない方法を使っている可能性も出てきます。もちろん、カウンセリングではどうしようもない問題もあるでしょうし、カウンセリングが適している問題もあるでしょう。
行動分析学は関係フレーム理論を加えることによって、ものすごく豊かなものになると感じています。深刻な行動問題に対するカウンセリングでも、臨床行動分析や関係フレーム理論を導入することで効果を発揮できる可能性があるかもしれません。