イントロダクション – 臨床行動分析のABC

『臨床行動分析のABC』のイントロダクションをまとめていきます。イントロダクションには臨床行動分析の重要なエッセンスがギュッと凝縮されているので、じっくりと読むことをオススメします。

イントロダクション – 臨床行動分析のABC

臨床行動分析は大きな枠組みで捉えると認知行動療法の枠内に入ります。一般的に「認知行動療法(CBT)」というと認知療法系のイメージがありますが、臨床行動分析はもちろん行動療法系です。そもそも認知療法と行動療法は基礎としている理論が異なるので、本当の意味で一緒にできるものではないような気もしています。

理論的なことについては、

このようにミックスしてしまうことで、ある本質的な「ゆがみ」が生じているのです。それというのも、伝統的な行動療法は学習理論の臨床的な応用であり、一方、認知療法は情報処理理論(information processing)というモデルをもとにしているからです。

『臨床行動分析のABC』 p.1

と書かれています。これはものすごく納得できるところです。「認知行動療法」という枠の中で2つの理論を使い分けることになるので、それをどのように統合していくのかという問題が出てきます。学習理論でも、情報処理理論でも(あるいは、行動的にも、認知的にも)解釈できるものをどう扱うかというところも気になるところです。

認知療法も行動療法も万能ではないので、仕方ないと言えるかもしれません。認知療法の枠ではレスポンデント条件づけやオペラント条件づけは説明できないし、(従来の)行動療法の枠では認知を扱えませんからね。

ここで、いくつか用語の整理をしておきます。

  • 認知/行動療法
    cognitive/behavioral therapies と cognitive and behavioral therapiesの訳。認知療法、行動療法、両者のミックスが含まれる。
  • 認知行動療法
    cognitive behavioral therapyの訳。認知療法と行動療法のミックス。
  • CBT
    CBTの訳。認知療法と行動療法のミックス。
  • 行動的心理療法
    行動療法と同じだが、行動療法より理論的な意味を明確に持っている

認知行動療法関係の訳については、p.2の訳注1に詳しく解説が書かれています。読み進めていくと忘れてしまうと思いますが、わかった上で読んでいくとより正確に理解できると思います。読み返すたびにそう思いながら、気づいたら忘れているというのを繰り返していますが。。。

行動分析学の見方・捉え方

行動分析学は「見方・捉え方」が重要なのですが、それがなかなか難しいという問題があります。行動主義の流れを汲む行動分析学ですが、その科学哲学として「徹底的行動主義」や「機能的文脈主義」がいろんな専門書に登場します。

何かの本に書いてあったと思いますが、「徹底的行動主義」は「徹底的に行動だけを扱う」のではなく、「徹底的にすべてを行動として扱う」ということを意味しています。「認知も行動」というのはそういうことです。行動とは何かについては後で触れるので、ここでは省略します。

「機能的文脈主義」は徹底的行動主義の違う言い方という説明を見たことがありますが、全くのイコールではないと思います。この辺はよくわかっていないので、説明できるようになったら修正する予定です。

「機能的文脈主義」には「機能」と「文脈」という2つの言葉が入っています。この2つが行動分析学にとって重要なものです。行動の機能に焦点を当てることその機能は文脈によって変化すること、というのが機能的文脈主義の簡単な説明になると思います。例えば、「大声を出す」という行動は、図書館とスポーツ観戦での応援という2つの文脈ではその機能が異なります。これが機能的文脈主義の見方・捉え方です。

行動主義である行動分析学は「プラグマティズム」も重要なものとなっています。

行動主義は、プラグマティズム(実用主義)の思潮の中に位置しています。つまり、行動主義は、知識・知見の価値を、その有効性によって最終的に決めていくという考え方の中に位置づいています。そのため、行動主義は本質的には心理学ではありません。むしろ、行動主義は、心理学の基礎として役立つ哲学であり、認識論の伝統であると捉えることができます。

『臨床行動分析のABC』 p.3

この辺の見方・捉え方は行動分析学を学んでいく中で自然と馴染んでいくと思います。ただ、言語行動と呼ばれる言葉に関するところで、機能的文脈主義の見方・捉え方ができるようになるのは大変でした。何冊か読んでやっとわかり始めてきたという感じでした。

行動とは何か?

行動分析学ではレスポンデント条件づけオペラント条件づけなど、条件づけに関する話が出てきます。心理学を学んでいればどこかで見聞きしたことのあるものだと思います。古典的条件づけとか、道具的条件づけという表現の方が馴染みがあるかもしれません。心理学を学問的に学んだことがない人でも、「パヴロフの犬」は知っていると思います。

条件づけについてある程度知っていても、「行動とは何か?」ということについて知らない人は意外と多いような気がします。僕も行動分析学をちゃんと勉強するまでは知りませんでした。もしかしたら、どこかで出会っていて忘れているだけかもしれませんが。

徹底的行動主義では、行動とは「有機体(生活体)が行うすべてのこと」を意味します。つまり、簡単に観察できる誰かの行為(たとえば、腕を上げる、誰かに話しかけるなど)だけではなく、自分の内部で起こっていることも(たとえば、考えたり、感じたり、思い出したりするなども)、行動として捉えるのです。

『臨床行動分析のABC』 p.8

行動をこのように定義すれば、「認知も行動」であることは理解できると思います。ついでに言えば、「感情も行動」で、「神経伝達も行動」です。徹底的に行動として扱うのが徹底的行動主義ということですね。

機能的文脈主義

機能的文脈主義のポイントは、「機能」と「文脈」です。ここをしっかりと理解することが、行動分析学を学ぶ上でとても重要になります。『臨床行動分析のABC』ではスミスさんとブラウンさんの話で説明されています。

機能と文脈については、『臨床行動分析のABC』に次のようにまとめられています。

  1. 機能を理解するということは、行動の目的(すなわち、その行動の後に生じる実際の「結果 consequence」)を理解するということである
  2. その「結果」は、特定の「文脈の中」で生じている

『臨床行動分析のABC』 p.13

機能に関してはカッコ内が重要で、「行動の目的」ではなく、「行動の結果」です。何を意図しているかということは関係がなく、実際にどういう結果になったかを見る必要があるということです。

これについては、訳注で詳しく説明されています。

[注釈3]この目的ということばは、行動をしている本人が「このようにしよう」と考える意図や計画のことではありません。あくまでも、ある行動が生起した後に生じる具体的な環境の変化のことを「目的」といっています(それゆえに「結果」ということばと交換可能なのです)。

『臨床行動分析のABC』 p.14

ここのところを理解するのはなかなか難しいような気がしています。行動分析学を知らない人に、行動は結果の影響を受けるという説明をして納得してもらったとしても、「こうするとこういう結果があると思うから、その行動をするようになるってこと?」みたいな感じに言われることもあります。

そのような考え方は間違っているわけではないし、その行動が生起することをそのように説明することがないわけでもありません。ただ、行動分析学としては、その人がどう思っているかに関係なく、行動が結果に影響を受けているというところが重要になります。どう思っているかがどのように影響するかについては、『臨床行動分析のABC』の重要なポイントの1つになりますが、それは第7章の「関係フレームづけ」から詳しく説明が始まります。

ここで重要なことは行動を機能と文脈から捉える「機能的文脈主義」が行動分析学の科学哲学になっているということです。

最後に

最初にも書いたように、『臨床行動分析のABC』のイントロダクションには重要なことがギュッと凝縮されています。これまで行動分析学を学んできた人にとっては納得することが多く、初めて触れる人にとってはよくわからないことが多いかもしれません。

行動分析学の立ち位置や見方・捉え方がまとまっているイントロダクションなので、ある程度理解してから読み返すとわかりやすくなると思います。

ここで出てきた「徹底的行動主義」、「機能的文脈主義」、「プラグマティズム」、「行動の定義」などは『臨床行動分析のABC』を読み進めていくうちに、少しずつ理解できるようになっていくと思います。個人的には「理解する」というより、「馴染んでいく」という表現がしっくりきますが。

次の第1章から本格的に行動分析学(臨床行動分析)の話に入っていきます。その前に、『臨床行動分析のABC』のイントロダクションの最後の段落を引用して終わりたいと思います。

この本は、トリートメント・マニュアルとして作られたものではありません。しかし、機能的な「見方・捉え方」から生み出された、いくつかの臨床的なガイドラインを提供しようとして作られました。つまるところ、この本は、私たちプロフェッショナルと呼ばれる存在そのものなのです。つまり、私たちがクライエントに対して、プロとしてできることの「すべて」なのです。

『臨床行動分析のABC』 p.22