第3章 文脈の中で行動を捉える – 臨床行動分析のABC

臨床行動分析のABC』の第3章は、行動を文脈の中で捉えることについてです。ABC分析が出てくるため、行動分析学らしさが強くなっていきます。それと同時に、難しさを感じる人も増えてくるかもしれません。

行動分析学(臨床行動分析)は、心理学にある他の理論と比べると見方・捉え方が大きく異なっていると感じています。今ある知識をとりあえず脇に置いて読み進めた方がわかりやすいと思います。

第3章 文脈の中で行動を捉える – 臨床行動分析のABC

行動分析学(臨床行動分析)の特徴の1つは、機能的文脈主義です。この表現から「機能」と「文脈」が重要なことがわかると思います。第3章は「文脈」についての説明になります。

「文脈」という表現はわかるようでわからない感じがするかもしれません。ここでの「文脈」は、「状況」と言い換えるとわかりやすいかなと思います。

行動を文脈の中で捉えるというのは、どんな状況でその行動が生じたのかを把握するということです。

例えば、「大声を出す」という行動は、図書館の中という状況と、スポーツの応援という状況では、その意味が変わってきますよね。スポーツの応援では問題がないことが多いと思いますが、図書館の中では問題になります。

行動を理解するためには、どんな状況でその行動が生じたのかを知る必要があります。つまり、行動が生じた文脈を見るということです。そこで使われるのがABC分析です。

ABC分析

ABC分析は、先行事象(Antecedent)行動(Behavior)結果(Consequence)の頭文字を取ったものです。

『臨床行動分析のABC』では「先行事象」ではなく「先行刺激」と書かれていますが、日本行動分析学会が用語の整理をして「先行事象」という訳語を使うようにしたようです。ただ、その用語リストが日本行動分析学会のサイトで見つけられなかったので、本で使われているのと違う表現を使う場合はその説明を入れていこうと思います。

ABC分析に似たものとして「機能分析」があります。厳密には違いがあるのかもしれませんが、『臨床行動分析のABC』ではp.157に「機能分析(ABC分析)」と書かれているので同じものとして扱っていると思います。

ABC分析/機能分析については「機能分析/ABC分析とは?」にまとめてあるので、ここでは簡単に触れようと思います。

行動分析学(臨床行動分析)では、行動を分析するときにその前後の出来事を含めて分析をします。行動(B)の前にある先行事象(A)と、行動(B)の後にある結果(C)です。

ABC分析とは、「どんな状況で(A)」、「何をして(B)」、「どうなったのか(C)」を見るということですね。

特に行動の後にある結果(C)については、一般的にな考え方では重視されないので、見落としてしまいやすいポイントになります。でも、行動分析学ではとても重要な役割を持っているので、慣れるまでは意識して情報を収集する必要があります。

短期的な結果と長期的な結果

結果(C)と言っても、それがどのタイミングの結果なのかという問題があります。例えば、試験前の学生が勉強ではなくゲームをすることは、試験に合格できないという結果に繋がることがありますが、それを経験していてもゲームに手が伸びてしまう人もいますよね。

行動分析学(臨床行動分析)では、結果を見るときに短期的な結果と長期的な結果に分けて考える必要があります。

行動が生じた直後に起こる結果は、長時間経ってから起こる結果よりも、行動をより制御しやすいという性質があります。

『臨床行動分析のABC』 p.85

試験勉強とゲームで言えば、試験に合格するという長期的な結果より、ゲームの楽しさという短期的な結果の方が影響力を持っているということです。よくダイエットを例に出すんですが、1か月後の体重減少よりも目の前のケーキを選んでしまうのも、これと同じですね。

ここで疑問に思うのは、「直後ってどれくらい?」というところです。確か『臨床行動分析のABC』には書いていなかったと思いますが、『行動分析学入門』(産業図書)には、次のように書かれています。

動物実験から、行動が起こってから60秒以内に好子が出現しないと行動は強化できないことがわかっている。人間の場合でも同じに考えていけない理由はない。

『行動分析学入門』(産業図書) p.16

「強化」というのは後の章で出てきますが、行動が増えることを指します。「好子」というのは『臨床行動分析のABC』で出てくる「強化子」と同じ意味です。強化については「「強化」を知って行動を増やそう」にまとめてあります。強化子は行動を増やすような結果のことです。

『行動分析学入門』(産業図書)からの引用を簡単に言えば、「直後の結果は60秒以内の結果である」ということです。ただし、人間では確かめられていないようで、動物実験からの推測になります。

確立操作

ABC分析の基本は、先行事象(A)、行動(B)、結果(C)の分析ですが、そこに「確立操作」(establishing operation : EO)と呼ばれるものを組み合わせることもあります。たまに「確率操作」と間違って記述されているのを見ますが、正しくは「確立操作」です。

確立操作は、通常「動機づけ」と呼ばれているものに影響を与える要因のことです。確立操作とは、ある特定の行動が生じる文脈の中にある「何か」なのです。そして、その「何か」は、まさにその文脈の中にある「結果」のもっている制御的な機能に影響を与えるのです。

『臨床行動分析のABC』 pp.87-88

ABC分析では、先行事象(A)、行動(B)、結果(C)の3つの要素を見ていました。そこに加わる第4の要素が「確立操作」なのです。

『臨床行動分析のABC』では、空腹感という確立操作の説明があります。この説明はすごくわかりやすいので、僕もよく使っていますが、ここでは「寒さ」を使ってみようと思います。

冬用のコートという先行事象(A)に続いて、そのコートを着るという行動(B)が生じ、寒さが軽減されるという結果(C)が得られるということがあったとします。ここでの行動が生じるかどうかは、「寒さ」という要因が影響を与えます。より正確に言うのであれば、おそらく「気温」になると思います。

真夏の屋外であればコートを着るという行動はほとんど生じないと思いますが、真冬の屋外ならほぼ確実に生じるはずです。この違いはABCだけだと説明できません。そこで「確立操作」である「寒さ」(気温)を考慮に入れる必要が出てきます。

何となく「確立操作」のイメージをつかめたでしょうか?

この「確立操作」について『臨床行動分析のABC』の訳注に重要なことが書かれているので引用します。

確立操作と動機づけがイコールではないことに注意してください。確立操作とは、あくまで「外的要因の操作」なのです。(中略)「確立する」とは「結果」の制御力を高める(あるいは、低める)ことを意味しています。つまり、「結果」の制御力が高まった状態のことを、一般的には「動機づけが高まった」状態として記述しているのです。また、以上のような定義のため、行動分析的には「内発的な」確立操作というものは存在しません。そのため、「内発的」と見なされやすい場合でも、外的変数の操作が可能であるものとして考えていきます。

『臨床行動分析のABC』 p.88 訳注

「動機づけ」というのは仮説構成概念の1つなので、行動分析学(臨床行動分析)で扱うことはほとんどないと思います。では、「動機づけ」をどのように捉えているかというと、この訳注の引用にあるような捉え方です。つまり、「結果の制御力が高まった状態を、動機づけが高いと表現する」ということです。

例に出した「寒さ」は「気温」という外的要因が確立操作として機能していると捉えます。『臨床行動分析のABC』に出てくる「空腹感」については、本文中に説明はありませんが、訳注で説明があります。

空腹感とは、食事提示(摂取)間隔を広げるという確立操作によって生じた身体的状態を意味します。

『臨床行動分析のABC』 p.89 訳注

正確に言えば、「空腹感」自体が確立操作なのではなく、食事する間隔が確立操作ということです。何度も読んでいるのに、ここでいつも目から鱗的な感覚にさせられます。確立操作をちゃんと理解できていない証拠ですね。。。

ABC分析の拡張

ここまで行動を文脈の中で捉える方法として、ABC分析について見てきました。3つの要素から始まり、確立操作という4つ目の要素が出てきました。さらに結果には短期的な結果と長期的な結果があることもわかりました。

長期的な結果については、従来の行動分析学よりも臨床行動分析を使って見ていく方が合っているかなと思っています。60秒以内じゃないと効果を発揮しないはずの結果が、どのようにして時間を飛び越えて影響を与えるのかということについては、「言葉の力」が関係しているので。

「言葉の力」なので、いわゆる認知や思考といったものを行動分析学的に捉える関係フレーム理論を知る必要があります。そうすることで、「動機づけ」に対する見え方も変わってくるかなと思います。

『臨床行動分析のABC』ではそこまで詳しく書かれていないので、詳細は別の機会にしようと思いますが、見方・捉え方ということでABC分析を拡張して考えてみます。

行動を文脈の中で捉えるために出てきた要素としては、

  • 先行事象(A)
  • 行動(B)
  • 結果(C)
  • 確立操作(EO)

という4つがありました。さらに、結果を短期的な結果と長期的な結果に分けて、5つの要素が出てきたことになります。この5つの要素を見ることによって、より包括的な分析ができるようになると思っています。

『新世代の認知行動療法』の第8章「臨床行動分析入門」では、5つの要素を含めたものとしてABCDE分析が載っています。一般的にそう言われているのか、著者の熊野宏昭先生が言っているのかはわかりませんが、ABCDE分析の視点を持つことが大事かなと思っています。

介入のターゲット行動の維持要因に関してABC分析を行うことは、今まで繰り返し述べてきたとおりであるが、さらに、臨床的な問題と重なることの多い長期的結果(Delayed outcome)やルールを含めた確立操作(Establishing operation)についても特定できるように、ABCDE分析まで進められるとよい。

『新世代の認知行動療法』 pp.108-109

ここでの「ルール」はルール支配行動におけるルールのことです。ルール支配行動は『臨床行動分析のABC』でも出てくるので、そのときに説明しようと思います。

ABCDE分析の「D」は長期的な結果、「E」は確立操作を表しています。これらをまとめると、次のような図にできると思っています。

基本は先行事象(A)、行動(B)、結果(C)のABC分析で、そこに確立操作が影響を与え、行動への影響力が小さい長期的な結果が導かれるということを示しているつもりです。A、C、Eを変えることで行動(B)に影響を与えることはできますが、それが長期的にどのような結果に繋がっていくのかという視点も重要だと思います。

長期的な結果のために短期的な苦痛を受け入れることが必要なこともありますよね。例えば、絶対に合格したい試験の勉強とか、ダイエットとか。そのような長期的な結果の影響力はほとんどないというのが行動分析学の知見ですが、長期的な結果がどのように影響力を持つのかということがとても重要なポイントになると思います。

このABC分析の拡張は、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー;Acceptance & Commitment Therapy)にも関係すると思っています。それはまた別の機会に。

最後に

『臨床行動分析のABC』の第3章では、行動を文脈の中で捉える見方・捉え方について説明されていました。この見方・捉え方が行動分析学(臨床行動分析)では重要で、呼吸するくらい当たり前のものと言えるかもしれません。

単に「行動は文脈の中で捉えろ!」と言われるだけだと困ってしまいますが、ここで見てきたように、行動分析学(臨床行動分析)にはそのやり方があります。

行動(B)の前にあった先行事象(A)は何なのか、行動(B)の後にあった結果(C)は何なのか、結果の制御力に影響を与える確立操作(E)は何なのか、ということを見ていくというやり方です。

そこに長期的な結果(D)を加えることもできます。それらを見ていくことが、行動を文脈の中で捉えることに繋がります。そして、行動がどのように維持されているのか、増えているのか、減っているのか、ということも重要になります。

これから登場してくるのが「条件づけ」です。次の第4章では「レスポンデント条件づけ」、続く第5章と第6章では「オペラント条件づけ」が出てきます。

さらに、第7章では「関係フレームづけ」というあまり聞きなれないものも出てきます。これが認知や思考と呼ばれるものを行動分析学的に見るときに必要になるものです。

第4章から少しややこしさが増してくると思いますが、心理学を学んできた人ならレスポンデント条件づけとオペラント条件づけに触れたことがあるはずです。もしかしたら、古典的条件づけと道具的条件づけと言った方がわかるかもしれませんね。

では、第3章までの見方・捉え方を使って、行動を理解する方法を見ていきましょう。