第2章 行動を観察する – 臨床行動分析のABC

臨床行動分析のABC』の第1章には、行動をカタチ(形態)から捉えるということが書かれていました。第2章では行動をどのように観察するのかということを見ていくことになります。

心理療法・カウンセリングでは、クライエントが最初からカウンセラーの欲しい情報を順序立てて話してくれることはほとんどありません。困ってはいてもそれをうまくまとめられないということもあります。そのような状況下で、カウンセラーはある視点に基づいて情報を整理しながら集めていくことになります。

行動分析学(臨床行動分析)では、どのように情報を集めるのでしょうか? どのように行動を観察するのでしょうか?

第2章 行動を観察する – 臨床行動分析のABC

行動分析学(臨床行動分析)では行動を中心として問題を見ていきます。単に行動を見るだけでなく、それがどのような場面で生じているかが重要になります。

例えば暴力が問題になっているとします。その暴力が「殴る」なのか、「蹴る」なのかということも重要ですが、どのような状況で誰に対して暴力が生じているのかを無視することはできません。そして、イントロダクションで触れられている機能的文脈主義の視点から「行動の機能」を理解するための情報も必要になります。

行動の機能を理解するためには、その行動がどのように「変化したか」を知る必要もあります。その行動の頻度は「いつ」増加したのでしょうか? あるいは、「いつ」減少したのでしょうか? そして、そのような行動的な事象の「変化や変動」は、つねに、その事象を制御している要因を調べるうえでの重要な手がかりを与えてくれるのです。

『臨床行動分析のABC』 p.52

『臨床行動分析のABC』にはこのように書かれていますが、第2章で行動の機能について触れられているのは、見落としがなければここだけです。第2章は「行動の観察」についてがメインだからだと思います。

行動を観察する

行動を観察する理由はいくつかあると思っています。そもそも行動分析学(臨床行動分析)は行動をターゲットにしているため、行動を観察しなければその効果を発揮するのは難しいでしょう。それと同時に、介入の効果を確認するために、問題となっている行動を観察し、それがどのように変化したのかを見ていくためにも、行動を観察することが必要になります。

行動分析学の入門書的な本などには、必ずと言っていいくらい行動の測定について書かれています。行動の頻度、持続時間、強度などですね。最初の状態でそれらがどうなっていて、介入によってどのように変化するのかということを知ることが大事だからです。というより、行動分析学(臨床行動分析)においては、それ以外で介入の効果などを科学的に調べることができないと考えた方がいいと思っています。

心理療法・カウンセリングでも考え方は同じです。最初の状態、つまりベースライン(baseline)を測定することで、その後の介入の効果を検証することができるようになります。これは行動分析学に基づいた心理療法・カウンセリングや、認知行動療法では特に重要視されることだと思います。

『臨床行動分析のABC』では、ケンカが問題になっている事例での説明から始まります。ケンカを観察するわけです。これは「いつもケンカしている」というような訴えを頻度・持続時間・強度などの側面から理解することに繋がります。

観察したことのグラフ化

行動の観察で重要であり、難しいことは、観察したことをグラフ化することです。

これはいろんな本などに書かれていますが、実践するのが難しいと感じています。おそらく問題リスト作りとか、問題を行動として定義することとかに関係すると思うので、まだまだスキルアップが必要なところですね。

そのグラフ化ですが、なぜそれが重要なのかについては、訳注に次のように書かれています。

観察した結果を検討する場合は必ずグラフ化してください。行動分析学において、グラフの「傾きの推移」を「読む」ことが重要とされています。なぜなら、記録した本人も気づかなかった「発見」がグラフ化することによって得られるからです。

『臨床行動分析のABC』 p.56 訳注1

もう1つの理由としては、介入の効果を確認することができるようになるというものがあります。

ベースライン期をA、介入期をBとしたABデザインというものがあります。AとBで変化があればそれが介入の効果ということになります。

このグラフを見れば、介入期に変化が見られていることがわかると思います。こういうことを確認するためにもグラフ化が必要になるということです。

他にもABAデザイン、ABABデザインについても書いてありますが、この辺のことを詳しく知りたい場合は別の本などを探すことをオススメします。入門書や概論書ならだいたい載っていると思いますが、購入するなら確認してからの方がいいと思います。

しっかりと行動分析学を学ぼうと思っているのであれば、有斐閣アルマの『行動分析学 – 行動の科学的理解をめざして』の第2章にある「4 行動実験法」(p.50~)などがいいかもしれません。

内的な行動を観察する

行動分析学(臨床行動分析)はいわゆる思考や感情などの内的なものも行動として扱います。これはイントロダクションに書いてある「徹底的行動主義」に関係します。徹底的行動主義は、「徹底的にすべてを行動として扱う」ことを意味しています。そのため、思考も「内的な行動」として観察します。

『臨床行動分析のABC』では、反すうで説明されています。

(何度も何度も)自問しているときに「レナードは、何をしている」のでしょうか? この場合、2つの側面―「内容」と「活動」―がとくに重要になります。

『臨床行動分析のABC』 p.62

レナードというのは『臨床行動分析のABC』の架空事例の1つに出てくる人物です。そのレナードの反すうについて、「内容」と「活動」を観察するということです。何回か読み直しているにも関わらず、「内容と活動?」と疑問に思ってしまいました。わかるような、わからないような。

その先を読むとその意味が理解できます。

レナードの場合は反すうをターゲットにしているため、「内容」というのは「どんなことを反すうしているのか?」ということになります。

レナードの事例ではありませんが、何かを選択しないといけないのに選択できないという悩みの相談の場合、「〇〇に関してはAがいいと思うけど、そうすると□□が問題になるし、それだとBがいいんだけど、〇〇が、、、」みたいな感じでぐるぐると同じことを考え続けていて、決めることができないということがあります。カッコ内に書いてあることが「内容」ということです。

では、「活動」というのはどういうものかというと、「ぐるぐると同じことを考え続けている」ということになります。レナードの例で言えば、反すうが「活動」で、何を反すうしているかが「内容」ということですね。

同じように重要なことは、反すうを「活動」として捉えるということです。つまり、次のような質問を彼にします。たとえば、「反すうしているとき、あなたは何をしていますか?」「いつ、反すうをしていますか?」「反すうしているときに、他に何かしていませんか?」「反すうした後、どうなりますか?」「反すうした後、どんなことをしますか? また、どんなふうにそのことを感じますか?」といった質問です。

『臨床行動分析のABC』 p.63

このようは視点は、この先に出てくるABC分析、機能分析で重要な役割を果たします。反すう自体がどのような状況で生じているのかという視点だからです。表現を変えれば、反すうという行動クラスがどのような文脈で生じているかということになります。

もう少しわかりやすく言うと、「反すう」とまとめられる行動が生じる状況を知るということです。このとき、反すうの内容はそこまで重要ではないと思います。内容ではなく、反すうという行動自体がどのように生じるのか、どのように維持されているのか、という視点で観察してみるということだからです。

「内容」に対するアプローチとしては、反すうを言語行動として捉えて、関係フレーム理論的に見ていくことになると思います。

行動的アプローチ・テスト

『臨床行動分析のABC』では、行動的アプローチ・テストというものについても説明されています。これについてはあまり詳しくありませんが、似たようなことをやることはあるという感想を持っています。

何かを回避していて、それを回避しなくなることが必要な場合、回避している状況に出会ったときにどのような反応をするのかを知るのは難しいものです。回避しているので、その状況が生じるのを待ち続けることになるからです。もしかしたら1か月、半年、1年と時間が必要になるかもしれないですよね。

そこで役立つ方法が行動的アプローチ・テストということだと思います。

1つの方法として、行動的アプローチ・テスト(behavioral approach test : BAT)の使用が挙げられます。そのテストでは、対象者(この事例では、アリス)が恐怖を感じる状況に接近していくのです。ただし、その状況は段階的あるいは階層的な方法で提示されます(最も弱い不安が生じる状況から提示していく、など)。

『臨床行動分析のABC』 p.64

アリスの事例は、1人で出かけることに不安を感じ、それを回避しているというものです。そのアリスに、実際に1人で出かけてもらって、そのときの状況を記録してもらうのが行動的アプローチ・テストです。

このようなやり方が不安階層表やエクスポージャーなどと関係しそうな気がしますが、まさしくその通りのようです。

このような恐怖の状況に関するランクづけ(階層)リストを作成する方法は、第13章で取り上げることにしましょう(この恐怖の階層リストは、エクスポージャー〔exposure〕手続きを組み立てるときに有効なツールとなるからです)。

『臨床行動分析のABC』 p.65

その他の観察方法

第2章では行動の観察について説明されていますが、ここまではクライエントが観察するというものが中心でした。行動を観察する方法は他にもあります。その1つは他者による観察です。

例えば、心理職としてコンサルテーションが求められる場面では、支援の対象となる人と直接のやりとりをしないで、その人と関わる他の専門職へのアドバイスなどをすることになります。医療や福祉関係のスタッフだったり、学校の先生だったり。そのような人たちに、支援対象者の行動を観察してもらうということです。『臨床行動分析のABC』にはジェニーの事例で説明されています。

他者による観察を「クライエント以外の人の観察」と捉えるのであれば、カウンセラーによる観察も含まれることになります。心理療法・カウンセリング以外でもクライエントに関わったり観察したりできるような職場であれば、普段の様子を直接観察することができますよね。

さらに、心理療法・カウンセリングのセッション内での観察もあります。クライエントが話すという行動を「内容」と「活動」に分けて観察することもできますし、言語以外の行動を観察することもできます。これは機能分析心理療法に繋がっていく視点だと思います。

機能分析心理療法に関しては、『機能分析心理療法―徹底的行動主義の果て、精神分析と行動療法の架け橋』というすごく面白い本があるんですが、訳がいまいちという情報を見たこともあります。個人的には、行動療法の第2世代と第3世代を繋ぐような位置にあるように感じています。

『機能分析心理療法』はいつか読み直したいなと思っている本で、内容をしっかりと理解できているわけでもないし、記憶が曖昧になっているところもありますが、問題となっている行動やそれと似た行動がセッション内で生じた場合、カウンセラー側の行動を変えることによってクライエントの行動に影響を与えるという視点が面白かった記憶があります。つまり、セッション内で生じた問題行動の随伴性を変えることで、変化に繋げるという感じですね。

話がそれたので『臨床行動分析のABC』に戻します。

第2章では、評定尺度も情報収集の方法として挙げられています。評定尺度をどのように解釈するかについては、理論的な立場でいろいろあるみたいです。それに関してはなかなか難しくて説明できないので、ここでは触れないことにします。

ただ、評定尺度は、行動分析学的な見方・捉え方とは異なっていることは知っておいた方がいいと思います。

心理測定法の背景にある理論は、しばしば次のような仮説に基づいています。その仮説とは、観察可能な行動は、内的な構造や内的な実体の単なる指標にすぎないというものです。たとえば、ある人の「知性」を測定するために実施された、いくつかの下位テストの得点は、行動によって得られた結果であるから興味深いのではなく、「知性」や知的能力といった仮説的構成概念が求められているから興味深いのです。

(中略)

機能的な「見方・捉え方」では、問題を説明するという目的のために、そのような背景に設定された仮説的な実体を扱うことはありません。

『臨床行動分析のABC』 p.69

第1章のところでも書きましたが、行動分析学(臨床行動分析)では仮説的構成概念(仮説構成体)を直接扱うことはせず、あくまで複数の行動に対するラベルとして扱います。そのような特徴があるため、「知性」という内的な実体ではなく、そのテストにおける反応という行動を見ていくことになります。

最後に

『臨床行動分析のABC』の第2章では、行動の観察について説明されています。行動分析学の見方・捉え方は苦手な人からしたらうんざりするくらい「行動、行動、行動、、、」と、徹底的に行動にフォーカスを当てています。「行動とは何か?」という問題もあって、とっつきにくくなっているところもあるような気がしています。

第4章以降で出てくるレスポンデント条件づけやオペラント条件づけについての知識はあったとしても、それを実際の場面に適用するのは意外と難しいものです。どれが先行事象で、どれが行動で、どれが結果なのか、というような問題ですね。そこに確立操作が入ると大混乱になることも。

この問題は、行動分析学の見方・捉え方が馴染むまで学び続け、使い続けることでしか改善できないかなと思っています。

そのための基礎となる行動の観察について学ぶためには、概念的なものやマウスやハトなどを使った実験的なものだけでなく、臨床的な事例にも適用していく必要があると思います。実際の事例を使って教えてくれる人がいるのであればいいんですが、いない場合は本などを使って学んでいくことになります。その場合は、自分の実践を行動分析学の見方・捉え方で見直すということが重要だと思っています。

『臨床行動分析のABC』は複数の事例を使って、行動分析学の見方・捉え方をわかりやすく説明しています。この記事でまとめたことについても、事例を使った説明になっていてわかりやすいと思います。

第2章の行動の観察をベースとして、第3章ではその行動を文脈の中で捉えていくことについて説明されています。ここでABC分析が登場してくるので、行動分析学(臨床行動分析)っぽい雰囲気が出てくると思います。