第4章 レスポンデント条件づけ – 臨床行動分析のABC

臨床行動分析のABC』の第4章からは、「行動を理解する」という第2部に入ります。第1章から第3章までの第1部「行動を記述する」を基礎として、行動をどのように理解するのかを見ていきます。

行動を理解するためには、行動分析学(臨床行動分析)の3つの原理である「レスポンデント条件づけ」(第4章)、「オペラント条件づけ」(第5章、第6章)、「関係フレームづけ」(第7章)を知る必要があります。それらを知った上で、第8章でABC分析の応用について見ていくことになります。

第4章の「レスポンデント条件づけ」は、古典的条件づけと呼ばれることもあります。「パヴロフの犬」と言えばピンとくる人もいるかもしれませんね。ベルの音を鳴らして餌を与えたら、ベルの音だけで唾液分泌するようになったというあの実験です。

心理学概論や学習心理学で、無条件刺激とは条件反応とかで混乱した人もいると思います。でも、「なぜその用語なのか」という視点で理解していけば、そこまで難しいものではありません。問題は略語が使われて、その略語が何なのかわからなくなるということかもしれませんが、この記事ではできる限り略語だけを使うことをしないでまとめていこうと思っています。

第4章 レスポンデント条件づけ – 臨床行動分析のABC

行動分析学(臨床行動分析)には「レスポンデント条件づけ」、「オペラント条件づけ」という条件づけが登場します。さらに、言語行動に関する「関係フレームづけ」というものも存在しています。厳密には違いますが、言語行動はいわゆる「認知」と捉えるとわかりやすいと思います。

関係フレームづけはレスポンデント条件づけとオペラント条件づけを知った上で理解する必要がありますが、レスポンデント条件づけとオペラント条件づけはどちらを先に説明するかが本によって異なっています。『臨床行動分析のABC』では、レスポンデント条件づけが先に説明されています。

レスポンデント条件づけについては、別の記事に詳しくまとめてあるので、この記事ではそれを前提としてまとめていこうと思います。

レスポンデント条件づけとは?

レスポンデント条件づけとは、パヴロフの犬で有名なタイプの条件づけです。簡単に言うと、生得的な刺激と反応の関係をもとにして、新たな刺激に対して同様の反応が生じるようになることです。

パヴロフの犬では、餌と唾液分泌という関係(無条件刺激と無条件反応)をもとにして、ベルの音で唾液分泌が生じるという関係(条件刺激と条件反応)を新たに作りだしています。ベルの音は唾液分泌という反応とは関係なかったものなので、最初の時点ではベルの音は中立刺激と呼ばれます。

刺激と反応
  • 無条件刺激
    生得的な反応(無条件反応)を誘発する刺激(餌)
  • 無条件反応
    ある刺激(無条件刺激)に対する生得的な反応(唾液分泌)
  • 中立刺激
    ある反応(唾液分泌)に対して無関係・中立な刺激(ベルの音)
  • 条件刺激
    レスポンデント条件づけにより、特定の反応(条件反応)を誘発するようになった刺激(ベルの音)
  • 条件反応
    レスポンデント条件づけにより、それまで中立だった刺激(条件刺激)に誘発されるようになった反応(唾液分泌)

ざっとまとめるとこんな感じかなと思います。正確な定義を参照したわけではありませんが、なんとなくのイメージは掴むためと思ってもらえれば。

このようなレスポンデント条件づけは、『臨床行動分析のABC』では次のように説明されています。

レスポンデント条件づけは、ある有機体(生活体)が生活している文脈や環境内に存在する刺激に対し、その時点ではもっていない、生理的に意味のある機能を新たに付与する、というように働きます。言い換えれば、レスポンデント条件づけにより、あらかじめある機能をもっている(あるいはまったくもっていない)何かが、さらに新しい機能を獲得するようになる、ということです。

『臨床行動分析のABC』 p.100

レスポンデント条件づけと情動反応

情動反応というのは何らかの刺激に誘発されて生じるため、レスポンデント条件づけと関係するものになってきます。ヒトは生得的にある刺激に対して特定の情動反応を示すようになっていると言われています。

恐怖に関しては、学習体験がなくてもその情動反応を引き起こすことができる刺激がいくつか存在することが報告されています。たとえば、速いスピードで迫ってくる物体、大きな音、そして他者の特定の表情などがそれに当たります(Öhaman, 2002)。

『臨床行動分析のABC』 p.103
※Öhman, A. (2002). Automaticity and amygdala : Nonconscious responses to emotional faces. Current Directions in Psychological Science, 11, 62-66.

生得的な刺激-反応のセットがあって、それをベースとしてレスポンデント条件づけを通して様々な刺激に対して様々な反応をするようになるというのが、基本的な枠組みということですね。行動分析学(臨床行動分析)の視点だと、生得的な刺激-反応のセットがなければ何の反応も誘発しない刺激に対して情動反応を示すようになることはないのかもしれませんね。

レスポンデント条件づけという視点を入れなくても、問題となる情動反応が過去の経験から来ているいう考え方を持っていない人はほとんどいないと思います。逆に言えば、ヒトは経験を通していろんなものに対していろんな情動反応を示すようになるということです。

そのような経験を通して引き起こされるようになった情動反応について、『臨床行動分析のABC』にはマリーの事例で説明されています。詳細は省略しますが、事例の後に書いてあることが重要だと思います。

レスポンデント条件づけが人生の初期の段階で私たちの行動を形作り、そしてその後の人生を通して、私たちと私たちの周りに存在する環境との間に築かれる基礎的な関係に影響を与えている

『臨床行動分析のABC』 p.104

この視点は、幼少期の経験を重視する精神分析にも通じるところがあるかなと思います。表現の仕方などは違いますが、幼少期の経験がその後の人生に影響を与えているという考え方は共通していますからね。

内部感覚条件づけ

ここまで見てきて気づいた人もいるかもしれませんが、刺激と反応の関係における「刺激」は生体の外側にある「刺激」となっていました。環境側にある刺激によって、生体が何らかの反応をするという感じですね。

この章では1ページ未満という簡単な説明になっていますが、生体の内側の刺激による条件づけも存在しています。この視点を入れると、いろいろなことを理解しやすくなると同時に、客観的な評価が難しくなるような気もしています。ある反応が何の刺激に誘発されているのかということを考えるとき、内的な刺激が誘発していると言ってしまえるからです。

このような内部刺激による条件づけについて、『臨床行動分析のABC』では次のように書かれています。

内部刺激とは、たとえば、情動、身体感覚、そして記憶といったものです。このような刺激による条件づけは、専門用語で、内部感覚条件づけ(interoceptive conditioning)と呼びます。

『臨床行動分析のABC』 p.104

訳注によると、interoceptive conditioningの定訳はないようです。翻訳された時点での話なので、もしかしたら定訳ができているのかもしれません。内部感覚条件づけというのは、翻訳者による新しい訳だそうです。

レスポンデント条件づけと思考

「思考」というものを「反応」として捉えるなら、何らかの刺激によってその思考が誘発されるのであれば、その現象にはレスポンデント条件づけが関係していると言えます。『臨床行動分析のABC』では「9月11日」で説明されていますが、日本人にとっては「3月11日」の方が何らかのイメージが浮かびやすいと思います。

「9月11日」という文字列から「3月11日」という思考が誘発されたのはレスポンデント条件づけでしょうか? それとも関係フレームづけでしょうか? おそらく関係フレームづけだと思います。なぜなら、「9月11日」という中性刺激と、「3月11日」という反応(思考)を誘発する刺激が対提示された経験はないと思われるからです。

この辺については余談みたいな感じになっていますが、『臨床行動分析のABC』では重要なポイントでもあります。

詳細は省略しますが、「思考」は条件刺激(CS)にも条件反応(CR)にもなります。ただ、レスポンデント条件づけだけで「思考」のすべてを説明できるわけではありません。説明できるのであれば、認知療法の出番はなかったかもしれませんね。

『臨床行動分析のABC』の第4章はこのように締めくくられています。

現時点では、思考と通常呼ばれているものには、レスポンデント条件づけ以上の「何か」が含まれていることを押さえておくだけで十分です。

『臨床行動分析のABC』 p.120

最後に

パヴロフの犬で説明されるレスポンデント条件づけですが、その説明だけでは臨床にどのように関係しているのかわかりにくいかもしれません。でも、『臨床行動分析のABC』にはレスポンデント条件づけがどのように臨床と関係しているのかが説明されています。

行動分析学(臨床行動分析)はオペラント条件づけの話がメインになっている感じがしますが、レスポンデント条件づけも重要なものです。特に心理療法・カウンセリングでは、レスポンデント条件づけの視点を入れた分析が必要かなと思います。

レスポンデント条件づけをちゃんと理解するには『臨床行動分析のABC』だけでは十分ではないと思いますし、僕も十分に理解しているとは言えません。まずはレスポンデント条件づけを大まかに理解して、必要に応じて詳細を見ていくという学び方がいいと思っています。