行動分析学には「消去」と呼ばれるものがあります。名前を見る限り「消すこと」に関係してそうですが、「消去」とはどのようなものなのでしょうか?
「消去」を知ることで行動分析学を使ったアセスメント、支援をより良いものにすることができます。
行動分析学における消去は2つある
行動分析学は2つの条件づけを扱っています。1つはレスポンデント条件づけ、もう1つはオペラント条件づけです。
レスポンデント条件づけはパヴロフの犬で有名なもので、古典的条件づけと呼ばれることもあります。古典的条件づけという名前であれば、行動分析学を学んでない人でも聞いたことがあるかもしれませんね。
もう1つのオペラント条件づけは、犬のしつけで説明するとわかりやすい条件づけです。「お手」と言って手を出したときに、犬が前足を手の上に乗せたら餌をあげて褒める、というのを目にしたことがあると思います。そこで機能してるのがオペラント条件づけです。道具的条件づけと呼ばれることもあります。
行動分析学では、レスポンデント条件づけとオペラント条件づけの両方について「消去」が存在しています。これが2つの消去です。
わかりにくいので、レスポンデント条件づけの消去を「レスポンデント消去」、オペラント条件づけの消去を「オペラント消去」と表現することにします。
レスポンデント消去とは?
レスポンデント消去の前にレスポンデント条件づけについて簡単に説明します。レスポンデント条件づけは、『行動の基礎 豊かな人間理解のために』では次のように説明されてます。
レスポンデント行動の学習をもたらす手続きはレスポンデント条件づけ(respondent conditioning)とよばれている。(p.57)
『行動の基礎』
では、レスポンデント行動の学習とは何でしょうか?
特定の刺激による生得的な身体反応が、他の任意の刺激によって誘発されるようになることをレスポンデント行動の学習という。(p.56)
『行動の基礎』
パヴロフの犬で説明すると、餌という刺激で唾液分泌という生得的な身体反応が生じ、そのときにベルの音を対提示することで、ベルの音という刺激で唾液分泌が誘発されるようになる、というのがレスポンデント条件づけになります。
詳しい説明はまた別の機会に。
レスポンデント消去とは何かというと、ベルの音だけを聞かせて、唾液分泌が減少してくことです。そのための手続き(ベルの音だけを聞かせる)は「消去手続き」と呼ばれます。
オペラント消去とは?
オペラント消去の前にオペラント条件づけについて簡単に説明します。オペラント条件づけは『行動の基礎』で次のように説明されてます。
オペラント条件づけは、特定の刺激のもとで自発される行動の結果を操作することによって、その行動の生起頻度を変化させる手続きである、ということができる。(p.105)
『行動の基礎』
オペラント条件づけは、行動の結果によってその行動の生起頻度を変化させることです。犬のしつけで言えば、餌をあげること(結果)で前足を手に乗せる行動を増やす、というようなものがオペラント条件づけになります。
オペラント条件づけについては、「行動分析学におけるオペラント条件づけとは?」にまとめてあります。
オペラント消去はというと、その結果をなくすことによって、行動の生起頻度が減少することを指します。餌をあげないでいると、犬は「お手」をしなくなるのが消去です。
行動分析学における消去の定義
行動分析学における消去にはレスポンデント消去とオペラント消去の2つがあります。その消去について、日本行動分析学会編集の『行動分析学事典』には次のように書かれています。
レスポンデント条件づけによって形成・維持されていた条件反応は、無条件刺激の提示しない(つまり、条件刺激だけを提示する)ことによって減弱する。オペラント条件づけにおいても、自発反応への強化を中止すると反応は減弱する。このように、条件刺激や自発反応に結果が随伴しなくなることで、反応が減弱する現象を消去という。(p.238)
『行動分析学事典』
重要なことは、条件づけを維持してた刺激を取り除くということだと思います。それによって反応・行動が減少してくことが「消去」です。
行動分析学における消去バーストとは?
消去バーストは消去に関係した現象のことです。つまり、消去手続きが行われてない状況で消去バーストは生じないということです。
わざわざこのような表現をしたのは、とある記事でとある心理学の研究者が消去バーストを間違って使ってたからです。
『行動分析学事典』には、消去バーストについて次のように書かれてます。
消去手続きを開始すると一時的に反応が大きくなることがある。これを消去バースト(反応頻発)という。(p.239)
『行動分析学事典』
『行動の基礎』には、次のように説明されてます。
消去直後に消去バースト(extinction burst)という急激な反応頻度の増加と反応強度の増加がみられる。(p.148)
『行動の基礎』
簡単に言うと、消去バーストは反応が激しくなることです。その激しさは、反応の頻度と強度が増加するというものです。反応が強くなると言うこともできそうですね。
ここだけを切り取ると、何かを我慢してて、我慢しきれなくなっていつも以上の反応を示すことも消去バーストだと勘違いするかもしれませんが、我慢することは消去ではないので、消去バーストは生じません。
とある心理学の研究者はこの辺がわかってなさそうですね。
最後に
消去と消去バーストに関しては他にもいろいろありますが、詳しいことはまたの機会にしたいと思います。この記事に書き足すか、新しい記事を書くかはわかりませんが。
今回の目的は行動分析学の用語が間違って使われてたので、その説明をしたかったということなので、これで十分かなと思ってます。もしかしたら、この記事での説明も間違ってる可能性もありますが、今のところの僕の理解はこんな感じです。
知識がアップデートしたら修正するかもしれません。