行動分析学において重要なものの1つがオペラント条件づけです。実際に、行動分析学に関する本はオペラント条件づけを中心に書かれていたりします。逆に言えば、オペラント条件づけを理解できれば、行動分析学をかなり理解できたことになります。
オペラント条件づけは、人の行動を理解するときにとても役に立ちます。でも、その理解の仕方は一般的なものとは異なります。そのため、理解に苦労したり、誤解したりしやすいものでもあります。
特別支援教育では応用行動分析学(ABA)が使われることがありますが、その応用行動分析学を含む学問領域が行動分析学です。さらに言えば、行動分析学は実験行動分析学と、それを支援に応用する応用行動分析学から成っています。
オペラント条件づけは言葉を介す必要のない学習の1つです。ということは、言葉を使えない対象に対しても有効性があるということです。相手の年齢や障害等で言葉での意思疎通が困難だったり、相手が言葉を使えなかったりしても、オペラント条件づけを使えば行動を変えることができます。
教育とは関係ありませんが、心理領域では、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)などは、行動分析学を基礎としているのでオペラント条件づけを理解することが必要になります。
では、オペラント条件づけとは何かを見ていきましょう。
オペラント条件づけとは?
オペラント条件づけに限らず、行動分析学は一般的な理解とは異なる方法で、行動を理解していきます。納得いかないところもあるかもしれませんが、「行動分析学ではそのように考えるのか」という感じで、とりあえずその理解の方法を理解していくことをオススメします。
何事もそうですが、知識的なことだけでは理解は難しいものです。その概念が具体的にどういうものなのかを事例を通して理解することが近道かもしれません。
それでも、まずは知識的にそれを知る必要があります。その上で、事例を通した理解をしていくといいと思います。
では、オペラント条件づけはどのように定義されているのでしょうか?
『臨床行動分析のABC』における定義
『臨床行動分析のABC』には、オペラント条件づけについて次のように書かれています。
オペラント条件づけは道具的行動の学習として定義されます。つまり、結果(C)によって制御される行動の学習ということです。(p.124)
『臨床行動分析のABC』
ある行動の前後を見たとき、その行動の後にある「結果」によって制御される行動の学習が、オペラント条件づけということです。これは、ある行動の結果が、その行動が将来どうなるかについて影響を与えているということを意味しています。
ここが誤解のポイントの1つなのですが、「結果によって制御される」ということだけを見ると、未来が過去に影響を与えるというような印象を受けます。なぜなら、行動が先にあり(過去であり)、その結果が後にある(未来にある)からです。
時系列的には、「行動 → 結果」です。未来によって過去改変が起こるという世界でなければ、結果が行動に影響を与えることはできません。
でも、オペラント条件づけは「結果によって制御される行動の学習」です。それが意味するのは、結果によって制御されるのは「未来の行動」ということです。
これは、結果を変えることによって行動を変えることができるということを意味しています。ここがオペラント条件づけの重要なところです。行動を変えることができるというのが、行動分析学の利点の1つです。
オペラント条件づけの別の定義も見てみましょう。
『行動分析学-行動の科学的理解をめざして』における定義
『行動分析学-行動の科学的理解をめざして』はかなり専門的なので、その分、定義も難しいものになっています。
オペラントとは、一般に「行動に後続する環境変化(刺激の提示・出現もしくは除去・消失)によって、その行動が生じる頻度が変容する行動」として定義され、オペラント条件づけ[operant conditioning]とはこのオペラントの学習(の手続き・事態・過程)を指す。(p.118)
『行動分析学-行動の科学的理解をめざして』
オペラント条件づけの「オペラント」の定義とセットで書かれていますね。この「オペラント」というのは、行動分析学の創始者であるB.F.スキナーによる造語です。調べたことはありませんが、普通の辞書には載っていないと思います。
オペラントという言葉自体が、結果によって制御される行動という意味なので、その行動を条件づけるものが「オペラント条件づけ」ということです。
つまり、オペラント条件づけは、結果によって制御される行動の学習ということになります。
オペラント条件づけを事例から理解する
ここまでオペラント条件づけの定義を見てきました。オペラント条件づけを知識として理解できたでしょうか。
次は、オペラント条件づけをきちんとした概念として理解するために、事例を通して理解していきましょう。
なぜテレビのリモコンの電源ボタンを押すのか?
テレビの電源を入れたり切ったりするためにリモコンが使われます。リモコンの電源ボタンを押すことで、電源のオンオフをするという当たり前の行動を、行動分析学におけるオペラント条件づけを使って説明してみましょう。
テレビのリモコン操作というのは、小さい子どもが教えてもらわずにできるようになったりします。初めてリモコンを使う大人より、子どもの方が早く使い方を覚えることもありますよね。
これは、小さい子どもがスマートフォンやタブレットを自由自在に操り、大人がそれに驚くということにも関係しています。
テレビがついていないとき、リモコンの電源ボタンを押すと(正確にはリモコンをテレビに向けて電源ボタンを押すと)、テレビの電源が入ります。
電源ボタンを押すという「行動」によって、テレビがつくという「結果」が出現したことになります。オペラント条件づけは、結果によって制御される行動の学習なので、電源ボタンを押すという行動は(それがオペラントであれば)、テレビがつくという結果に影響を受けます。
もし、次にテレビがついていないときにリモコンの電源ボタンを押したとしたら、オペラント条件づけが成立した可能性があります。なぜ「可能性」なのかというと、たまたまという可能性があるからです。
この場合、テレビを消してみたときに、再度リモコンの電源ボタンを押すのであれば、テレビがつくという結果によってリモコンの電源ボタンを押すという行動が制御されていると考えることができます。
見方を変えれば、リモコンの電源ボタンを押してもテレビがつかなかったら、電源ボタンを押すという行動は増えないということです。これも当たり前のことですが、エアコンのリモコンの電源ボタンを押してもテレビはつかないので、テレビをつけるときにエアコンを操作することはなくなっていきます。
リモコンの電源ボタンを押す行動の事例をより高度に分析することもできる
実は、リモコンの電源ボタンを押す行動の事例を、より高度に分析することも可能です。それは、言葉による行動のコントロールです。
「リモコンの電源ボタンを押したらテレビがつく」ということを言葉として理解することで、電源ボタンを押す行動はさらに強固になります。この辺はルール支配行動と呼ばれるものとの関係で説明されているので、ここでは詳しく説明しないことにします。
言葉を介さない学習だけでは、すべての行動の学習を説明することはできません。このことも、行動分析学が誤解される一因となっているのかもしれません。
ここでは、オペラント条件づけの説明に重点を置くため、言葉がなくてもリモコンの電源ボタンを押す行動を身につけることができるということを説明しました。納得できないかもしれませんが、行動分析学におけるオペラント条件づけはそのようなものと理解しておきましょう。
最後に
行動分析学におけるオペラント条件づけは、結果によって制御される行動の学習です。
一般的に、行動の原因を探るとき、行動の前にあることを見ようとしますが、行動の後にあるもの、つまり結果に焦点を当てることは、別の見え方を提供してくれます。
行動の結果として何があるかということは、その行動が将来増えるのか、減るのかという点でとても重要なポイントになります。オペラント条件づけは、その視点を与えてくれるありがたい存在と言えるかもしれません。
オペラント条件づけでは行動が増減するメカニズムが明らかになっています。そのメカニズムについては「行動が増減する4つのメカニズムを知れば行動を変えられる!」で説明しています。
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