行動分析学は行動を扱く学問領域ですが、そもそも「行動」とは何でしょうか?
「行動」と言えば、誰でもそれが何かわかるように思いますが、行動分析学における「行動」は一般的な意味とは異なっています。
行動分析学における「行動」を理解することが、行動分析学の深い理解に繋がります。
行動分析学における行動の定義
行動分析学では「行動の予測と制御」が目標とされています。そのため、何が行動で、何が行動ではないかをしっかりと定義しておく必要があります。
行動分析学を活用する側もその定義を知っておくことで、行動ではないものを行動分析学を使って何とかしようとする無駄なことをしないですみます。
また、本当は行動なのに、行動ではないとして行動分析学の対象から外してしまうというもったいないことも起きにくくなります。
行動分析学における行動の定義として、『行動の基礎-豊かな人間理解のために』には次のように書かれています。
環境の中で生体がすること(p.9)
『行動の基礎-豊かな人間理解のために』
生体(生物)は環境の中でたくさんのことをしています。
例えば、僕がこの記事を書いているのも環境の中でしていることですし、あなたがこの記事を読んでいるのも環境の中でしていることです。
このようなすべてのことを、行動分析学では「行動」として扱っています。
この定義に従うと、一般的な意味では「行動」と呼ばれないものについても、「行動」に含めることになります。
一般的に、「行動」と言えば、体を動かして何かをすることを指しますよね。そのため、「考える」ということは行動には含まれず、「思考」という別物として扱われます。
でも、「考える」ことも生体が環境の中でしていることなので、行動分析学では「行動」として扱うことになります。
さらに言えば、生理的な反応や感情、神経系の働きなども「行動」に含まれます。これらも生体が環境の中でしていることですからね。
すべてを徹底的に行動として扱うという意味で、行動分析学の科学哲学は「徹底的行動主義」と呼ばれています。最近では、「機能的文脈主義」と呼ばれることもあります。
行動と行動でないものを分けるテスト(死人テスト)
行動分析学における行動の定義はシンプルなものですが、何が行動で、何が行動ではないかを判断するときに困ることがあります。
そのようなときに役立つ「テスト」があります。
行動と行動でないものを分けるテストは、「死人テスト」と呼ばれています。
『行動分析学入門』には、死人テストについて次のように書かれています。
死人でもできることは行動ではない(p.7)
『行動分析学入門』
例えば、授業中に「静かにする」ことは重要なことですが、「静かにする」は死人でもできるので「行動」とは言えないことになります。
「静かにする」ことは行動ではないので、行動分析学を使っても増やしたり減らしたりすることはできません。
でも、それは「静かにする」ことに対して行動分析学が無力であるという意味ではありません。単に、ターゲットにする行動として「静かにする」が適切ではないということです。
「静かにする」ことを目標にするには、「うるさくする」や「しゃべる」などの行動を減らすという枠組みで捉え直す必要があります。
行動を減らすので「弱化」を使うことになりますが、弱化には副作用があるので使用には十分な注意が必要です。
まとめ
行動分析学では「行動」を一般的に使われている意味とは異なるものとして定義しています。
その定義は「生体が環境の中ですること」(『行動の基礎』)
というものです。この定義に従って、行動分析学は行動を扱っています。
行動分析学における行動を判断するためのテストとしては「死人テスト」があります。死んでいる人でもできるかどうかが基準となっていて、死んでいる人ができないことが行動であるというものです。
このような行動分析学における行動をしっかりと理解することで、行動分析学を児童・生徒の指導や支援により役立てることができるようになります。
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