フローという言葉を聞いたことはありましたが、それがどういうものなのかをちゃんと確かめたことはありませんでした。
フロー(flow)はポジティブ心理学の重要な概念(心理現象)の1つだそうです。心理学の概念はどれでもそうですが、フローというものがどのように定義されているものなのかを知ることが、心理学の知識を理解するうえでとても重要なことですよね。
ポジティブ心理学を学ぶのに選んだ『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』を見ながら、フローについて考えてみようと思います。
『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』の第4章は、「フロー経験の諸側面」というタイトルが付けられています。
そのタイトル通り、この章ではフロー経験について書かれています。今回は基本的に第4章「フロー経験の諸側面」に書かれていることを中心に考えていくことにします。
では、まずフローについてどのように書かれているかということから見ていきましょう。
フローとは何か?
フローとは一体何なんでしょうか?
『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』には次のように書かれています。
フローとは、内発的に動機づけられた自己の没入感覚を伴う楽しい経験を指し、フロー状態にある時、人は活動のための刺激領域に対して高い集中力を示し、活動を楽しむと同時に、高いレベルの満足感、幸福感、状況のコントロール感、自尊感情の高まりなどを経験する。(p.47)
『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』
フローは、没入感覚を伴う楽しい経験ということです。しかも、それは内発的に動機づけられているという特徴があります。
簡単な言葉で表現すれば、「夢中になっている」という感じでしょうか。
さらに、楽しむだけでなく、満足感や幸福感、状況のコントロール感、自尊感情の高まりなども経験しているということです。
スポーツの世界などで「ゾーン」と呼ばれているものと似たようなものなのかもしれませんね。ゾーンについてもよくわかりませんが。
このフローは、ミハイ・チクセントミハイ(Csikszentmihalyi, Mihaly)によって提出された概念だそうです。
『ポジティブ心理-21世紀の心理学の可能性』では、チクセントミハイの文献を引用して、次のように書かれています。
ひとつの活動を行う際の内発的に動機づけられた、時間感覚を失うほどの高い集中力、楽しさ、自己の没入感覚でいい表されるような意識の状態あるいは経験を指す(Csikszentmihalyi, 1975/2000 ; 1990)。(p.48)
『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』
※Csikszentmihalyi, M. 1975 Beyond boredm and anxiety. San Ffancisco : Jowwey-Bass. [Repirnted in 2000 with a new introduction]
※Csikszentmihalyi, M. 1990 Flow: The psychology of optimal experience. New York: HarperCollins.
なんとなくわかるような気もしますが、よくわからない感じもします。とにかく、ものすごい集中力が発揮されていて、楽しくて、没入感覚がある状態ということですね。
想像することはできますが、自分の体験としてフローを実感できるような経験はないような気がします。それが理解を難しくしている可能性もありそうです。実際には経験しているけど、気づいていないという可能性もありますが。
もしかしたら、マインドフルネスのように経験することで理解できるようなものなのかもしれませんね。
フローがどのような条件で経験されるのかについては、2つの条件が仮定されているそうです。
第1の条件は、人が取り組んでいる活動がその行為者に要求する能力(挑戦:challenges)と行為者が実際に持っているその活動を遂行するための能力(skills)とが高いレベルで適合していることである。(p.50)
『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』
自分が持っている能力のレベルと合った活動が必要ということですね。しかも、高いレベルで適合していることが条件なので、レベル1の勇者がレベル1のスライムと戦っているみたいな状況では条件を満たさないということなのでしょう。
ドラゴンボールで例えるなら、ジレンと戦っている悟空の「身勝手の極意」みたいな感じなのかもしれませんね。ちょっとフローっぽい感じですよね。
次に第2の条件を見てみましょう。
第2の条件は、活動の目標が手近でかつ明瞭であり、進行中の活動に関するフィードバック(自身が確実に目標に近づいているという情報)が即座に得られるということである。(p.50)
『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』
フィードバックが遅れてくるときには、フローを経験することができないということですね。身勝手の極意は一瞬の攻防も含めてフィードバックが即座に来ているので、フローに近いのかもしれません(無理やり?)。
4チャンネル・フローモデル
フローを経験するには、活動と能力が高レベルで適合している必要があります。そのため、活動の次元と能力の次元の2次元で捉えることで、フロー状態とそうじゃない状態を知ることができます。
4チャンネル・フローモデルは、これまでの調査から得られたデータに基づいて概念化されたフローモデルの1つだそうです。
このモデルについて、『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』での説明を引用してみましょう。
この4チャンネルモデルでは、知覚された挑戦のレベルと能力のレベルでフロー状態と非フロー状態を定義するが、具体的には、挑戦のレベルと能力のレベルが共に個人の平均より高い状態を”フロー状態(flow condition)”、挑戦のレベルが個人の平均よりも高く、能力のベルが個人の平均よりも低い状態を”不安状態(anxiety condition)”、挑戦のレベルが個人の平均よりも低く、能力のレベルが個人の平均よりも高い状態を”退屈状態(boredom condition)”、挑戦のレベルと能力のレベルが共に個人の平均よりも低い状態を”アパシー状態(apathy condition)”と定義する。(p.51)
『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』
このようなモデルからフロー状態を理解していくような研究がなされているということなのでしょう。
まとめると次のような感じです。
- フロー状態:高い挑戦と高い能力
- 不安状態:高い挑戦と低い能力
- 退屈状態:低い挑戦と高い能力
- アパシー状態:低い挑戦と低い能力
これ自体は確定されたものというわけではなく、データに基づいて変更されていくもののようで、実際にデータの蓄積によって退屈状態の捉え方が変わってきているようです。
退屈状態にもポジティブな面があるということが指摘されてきているとのことです。それに関して、次のように書かれています。
最近の4チャンネル・フローモデルは”高い能力-低い挑戦”の領域を”リラックス状態(relaxation condition)”と呼び、この状態が部分的にポジティブな状態であることを認識したモデルへと変わってきている(Csikszentmihalyi, 1997 ; Hektner & Asakawa, 2000, Nakamura & Csikszentmihalyi, 2002)。(p.51-52)
『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』
※Csikszentmihalyi, M. Finding flow: The psychology of engagement with everyday life. New York: Basic Books.
※Hektner, J., & Asakawa, K. 2000 Learning to like challenges. In M. Csikszentmihalyi, & B. Schneider (Eds.), Becoming adult: How teenagers prepare for the world of work. New York: Basic Books. pp.95-112.
※Nakamura, J., & Csikszentmihalyi, M. 2002 The concept of flow. In C. R. Snyder, & S. J. Lopez (Eds.), Handbook of positive psychology. New York: Oxford University Press. pp.89-105.
ポジティブな面を見出したのは、ポジティブ心理学だからというのは関係していたりするのかなとか思ったりしています。
確かに能力が高く、挑戦が低ければリラックスできますよね。退屈という側面と、リラックスという側面の両方がありそうですね。
このフローの研究が日本人にも当てはまるかというのは気になるところです。この辺は文化差などが影響する可能性もありますしね。
ということで、この章の著者の浅川希洋志先生が日本人大学生を対象に、日本人にも適用できることを示唆する研究を行っています。詳しくは、『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』や浅川先生の研究を参照してください。
フロー経験は人にどのような影響を与えるのか?
ここまでフローとは何かということについて書いてきましたが、そのフロー経験は人にどのような影響を与えるのかも大事な視点ですよね。
そのことについて、興味深い調査結果が書かれています。高校生を対象にしたアメリカでの調査です。
17歳まで自分が優秀と認められる分野に没頭し続けた生徒はそうでない生徒よりも、13歳の時点で学校での活動にフローを経験することが多く、また不安を経験することが少なかったということが報告されている。(p.62)
『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』
時系列的に見れば、13歳の時点で学校での活でフロー経験が多く、不安の経験が少ない生徒が、17歳まで自分が優秀と認められる分野に没頭し続けたと言いたいところですが、そういう因果関係は示されているような記述ではありませんね。
この辺の因果関係は気になるところです。
他の研究として、数学の成績に関するアメリカの研究も紹介されています。
数学の能力の高い学生を対象に行ったアメリカの縦断的研究は、数学の授業課程の前半に高い頻度でフローを経験した生徒の方がそうでない生徒よりも、課程の後半でより良い成績を示したことを報告している(Heine, 1996)(p.62)
『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』
※Heine, C. 1996 Flow and achievement in mathmatics. Unpublished doctoral dissertation, Universtiy of Chiago.
これはフロー経験が、挑戦と能力が高いレベルで適合していることを条件としているので、そもそも能力が高いということなので、当たり前のような気がします。
言い換えるなら、「数学の能力が高い生徒が、より良い成績を示した」みたいなことなんじゃないかなと。課程の前半の時点で能力が高いということですからね。
これについては、フロー経験というものを使わなくても説明できるのかどうかを知りたいところです。
結局フローって?
この章を読んで思ったことは、「結局フローって何なんだろう?」ということでした。
ポジティブ心理学的には重要なものだというのはわかりましたが、わざわざフローという概念を使って説明する必要があるのかというところが疑問です。
紹介されている研究のすべてではありませんが、「その研究結果からフローという心理現象が存在することが示される」みたいな印象も受けました。なんかモヤモヤした感じで、はっきりとは言い切れませんが。
おそらく、フローというものをきちんと理解できていないこと、フローに関する研究を十分に理解できていないことが影響しているのかなと思います。
理解できていれば、モヤモヤした感じではなく、「これって違うんじゃない?」みたいにはっきりと言えますしね。
ということで、この辺はさらに学んでいく必要がありそうです。ポジティブ心理学自体は今のところワクワクするような感じなので、フローについてもさらなる知識が勝手に入ってくるだろうなと思っています。