親切にすると主観的幸福感が増加する!? 親切は道徳的なことだけではなく、自分自身の幸福にも関係しているのかもしれない

他人に親切にしましょう。道徳の授業とかでよく出てきそうなセリフですよね。「親切にすることはいいことである」と言われますが、それが自分自身の幸福と関係があると言ったら、どうでしょうか?

他人に親切にすることは一般的に「いいこと」と考えられています。でも、それがなかなか難しいから、「道徳」という枠組みの中で「教える」必要があるのかもしれません。

ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』の第6章は「ポジティブ感情の機能と社会的行動」というタイトルが付けられています。著者は大竹恵子先生です。

タイトルからもわかるように、その章にはポジティブ感情と社会的行動との関係について書かれています。

ポジティブ心理学は、幸せになるための心理学という側面もあると思われるので、幸福感というのは重要なポイントになりますよね。

その幸福感がどうしたら高められるのかという疑問の1つの答えとして、親切にするということが関係しているかもしれません。

そのことについて、『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』を参考に説明していきます。

拡張-形成理論(broaden-and-build theory)

ポジティブ感情の理論として、フレドリクソンによる拡張-形成理論があります。その理論について、『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』では次のように説明されています。

拡張-形成理論では、その名前が示す通り、「拡張(Broaden)」と「形成(Build)」という2つの大きな特徴がある。そして、この理論では、ポジティブ感情の機能について、「ポジティブ感情の経験」「思考-行動レパートリーの一時的拡張」「個人資源の継続的形成」「人間のらせん的変化と成長」という4つの段階をもつプロセスとして説明されている。(p.88)

『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』

これを簡単にまとめると、ポジティブ感情を経験することで、思考-行動レパートリーが一時的に拡張し、個人資源が形成され、変化と成長が起こることにより、さらにポジティブ感情を経験することが増える、というものです。

『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』では、「思考-行動レパートリーの一時的拡張」、「個人資源の継続的形成」、「人間のらせん的変化と成長」について、研究を引用しながら説明されています。

なかなか興味深い研究が紹介されていますが、詳細は本に譲るとして、最後の段階である「人間のらせん的変化と成長」について少し説明します。

この段階については、次のように書かれています。

この「人間のらせん的変化と成長」とは、少し大胆ないい方をすれば、ポジティブ心理学が目指している最終目標だといえるかもしれない。つまり、ポジティブ感情が、人類のウェルビーイングをもたらす効果を持つという意味である。(p.91)

『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』

Well-Beingはポジティブ心理学における重要な概念であり、幸せとの関係するものです。そのWell-Beingを高めることを目標としてるポジティブ心理学にとって、外せないところと言えますよね。

この拡張-形成理論に従えば、Well-Beingの基礎となる部分としてポジティブ感情があるということになります。それだけポジティブ感情が重要ということですね。

では、そもそもポジティブ感情の経験を増やすためにはどうすればいいのでしょうか?

ポジティブ感情の経験を増やして、主観的幸福感を増やそう?

Well-Beingに繋がるポジティブ感情の経験をどのように増やすかということについて、第6章を書かれた大竹先生が研究をされているようで、その章の中で紹介されています。

ウェルビーイングを高めるためには、個人資源の形成が必要であり、そのためには、思考や行動が広がるためのポジティブ感情を経験するということがポイントとなると考えられる。そこで、筆者らは、ポジティブ感情を経験するためのひとつの行動として、社会的行動である「援助行動・親切行動」に注目し、この行動を通して、個人の主観的幸福感としてのウェルビーイングが高まるかどうかということについて一連の研究を行っている(Otake, 2004; Otake et al., 2004; Otake et al., in press)。(p.93-94)

『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』

ここで、この記事のタイトルにも書いた「親切」が出てきます。先に拡張-形成理論を紹介したのは、この研究に繋げるためです(本の中でもこの順番になっています)。

親切行動と主観的幸福感の関係を明らかにしたうえで、親切行動を行ってもらうという介入研究が行われています。

介入群の条件は次のようなものです(p.94から引用)

  • 親切行動を1日1回以上
  • 1週間継続

介入の効果として測定したのは、介入の前後1か月の時点における主観的幸福感だそうです。その結果として、次のようなことが明らかになりました。

親切行動をするという介入を実施した群は、何もしなかった対照群に比べて、介入から1ヶ月後の主観的幸福感が増加していたことが明らかにされた。つまり、「親切行動」を行ったことによって、主観的幸福感、すなわちウェルビーイングが増加したのである。(p.94)

『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』

とうとうきました。親切行動をすることで主観的幸福感が増加するという結果です。これはなかなか興味深いですよね。

道徳的に「他人に親切にしましょう」ではなく、「幸せになりたかったら、他人に親切にしましょう」と言うことができるということです。

さらに、興味深い結果も書かれています。

介入群の中でも特に、主観的幸福感の得点が増加した人たちは、親切行動の1日の平均回数が多く、親切行動の介入を通して、うれしい・感謝というポジティブ感情を多く経験していた(p.94)

『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』

実際の研究を見たわけではないので何とも言えない部分はありますが、この表現からすると、拡張-形成理論を裏づけるような結果と言えるのかもしれません。

拡張段階は必要ない?

ただ、もしかしたら、拡張の段階が必要ないのかもしれません。

上の説明でわかることは、「親切行動 → ポジティブ感情 → Well-Being」という流れです。Well-Beingが4段階目の「人間のらせん的変化と成長」だとしたら、1段階目の「ポジティブ感情の経験」の次に4段階目ということになります。

つまり、2~3段階目は必要ないのかもしれないということです。

この辺はさらなる検討が必要なところなのでしょうが、とにかく親切にすることが自分の主観的幸福感を高めるために役に立つ可能性があるというのは興味深いところです。

ただ、「この結果については、当然、さらに長期的な介入の効果について検討すべきであり、また、主観的幸福感が増加した理由やメカニズムについても今後詳細に検討していく必要がある」(p.94)と書かれているように、今後の研究が待たれるところです。

『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』が出版されたのが2006年なので、現在(2018年)では、より詳しいことがわかっている可能性はありそうですね。