なぜポジティブ感情はあるのか? ポジティブ感情はどのような影響を与えるのか?

進化論的な考え方に基づけば、現在あるものは必要だから淘汰されずに残っているということになります。ということは、ポジティブ感情も必要だから残っているということですよね。

ネガティブ感情は、適応的な側面があることがわかっています。

例えば、恐怖は逃げ出すために必要だし、怒りは攻撃行動と結びついています。

ネガティブ感情の研究はたくさんありますが、ポジティブ感情の研究はネガティブ感情と比べて多くはないそうです。

『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』「21世紀の感情研究における新しい潮流は、ポジティブ感情に関する研究に注目が集まってきたこと」(p.66)だそうです。

というわけで、『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』を参考に、なぜポジティブ感情があるのか、ポジティブ感情がどのような影響を与えるのかを見ていきましょう。

『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』の第5章は「ポジティブな感情と認知とその心理的・生理的影響」というものです。この章の著者は鈴木直人先生です。

ポジティブ感情はどのようなものか?

ポジティブ感情は人間にとっても心理学にとっても重要なものですが、その研究はネガティブ感情に比べると多くはないそうです。

21世紀の感情研究における新しい潮流は、ポジティブ感情に関する研究に注目が集まってきたこと(p.66)

『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』

『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』には、このように書かれています。ポジティブ感情の研究がなかったわけではなく、21世紀になってからポジティブ感情に関する研究が注目されてきているということのようです。

では、ポジティブ感情がどのようなものかをまず確認してみます。その特異性について、次のように書かれています。

ポジティブ感情の特徴のひとつは、比較的強いストレス状況下においても、ポジティブ感情は比較的高頻度で生じることである。例えば、肉親の死に直面し、主観的には悲しみのどん底にあると考えられる人でも、人の冗談やコメディ番組に対して笑顔などによってポジティブ感情を表出することはよく見かけられる。(p.68)

『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』

これはお葬式などの場面を思い出すとわかるかもしれません。

悲しみのただ中にいるにもかかわらず、小さい子どもの振る舞いに笑顔したことがあったり、笑顔になっている人を見たりしたことがあると思います。

故人とのエピソードを笑い話として語り合ったりすることもあるでしょう。

ポジティブ感情にはこのような特徴が存在しています。

さらに、ポジティブ感情とネガティブ感情の違いとして、感情の分化に違いがあると考えられているそうです。

ネガティブ感情は発達に伴い細分化されていくのに対し、ポジティブ感情は成長の最も早い時期に他の感情から分化するがその後の成長であまり分化が生じない。(p.68)

『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』

これについては、『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』ではいくつかの研究を紹介して、その根拠を示しています。

その一方で、ポジティブ感情とネガティブ感情の質的な違いも指摘されているとのことです。ポジティブ感情とネガティブ感情と関係する身体的(生理的)反応に違いがあるそうで、次のように書かれています。

両感情が独立していることを示唆しており、その神経的経路が異なることも指摘されている(Lane et al., 1997)。(p.70)

『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』

※Lane, R. D., Reiman, E. M., Bradley, M. M., Lang, P. J., Ahern, G. L., Davidson, R. J., & Schwartz, G. E. 1997 Neuroanatomical correlates of pleasant and unpleasant emotion. Neuropsychologia, 35, 1437-1444.

なかなか興味深いところですね。

ポジティブ感情とネガティブ感情の神経的経路が異なっているということは、「ポジティブ感情 vs ネガティブ感情」というような単純な図式では理解できないのかもしれません。

ポジティブ感情はどのような機能を持っているのか?

最初の方に書いたように、進化論的に考えれば、ポジティブ感情には何らかの有益な機能が存在しているからこそ、淘汰されずに残っていると考えることができますよね。

ということは、なぜポジティブ感情があるのかという問いは、ポジティブ感情はどのような機能を持っているのかという問いに置き換えても良さそうです。

ポジティブ感情は、目前の問題解決に対処するために、限局された有効な資源を活用するという時定数の短いネガティブ感情とは違い、広範囲の資源を取り寄せ、問題そのもの対処というよりも、長い目で見てプラスになるような時定数の長い効果をもたらすと考えられる。(p.71)

『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』

ネガティブ感情を感じているときと比べて、ポジティブ感情を感じているときは視野が広がり、長期的な視点で物事を考えることができますよね。

ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)では、「価値」という概念を使って長期的な視点での行動を促していると考えられます。そういう意味で、ポジティブ感情の役割が重要になってくるかもしれませんね。

ポジティブ感情の機能について、他にもいくつか書かれていますが、1つ引用してみます。

ポジティブな感情状態は、創造的な思考活動を促進し、問題解決を助け、ポジティブな物事へのアクセスビリティを高め、あいまいな現象は自分にとってポジティブなものとして捉える傾向をもたらすことも指摘されている(Isen et al., 1985)。(p.71)

『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』

※Isen, A. M., Johnson, M. S., Mertz, E., & Robinson, G. F. 1985 The influence of positive affect on the unusualness of word associations. Journal of peronality and social Psychology, 48 1413-1426.

この指摘が正しいなら、問題解決は楽しくやった方が効果的と言えそうですね。柔軟な発想で、より良い解決法を考え出すことができる可能性が上がりそうです。

さらに、「あいまいな現象は自分にとってポジティブなものとして捉える傾向」というのも見逃せません。

ポジティブに捉えることでポジティブ感情が生起し、あいまいな現象をポジティブに捉えられるようになる、という循環が起こりそうな予感がします。東豊先生のP循環療法もこの辺に関係してくるのでしょうか。

このようなポジティブ感情に関係する研究から、次のような理論が提唱されているそうです。

フレドリクソン(Fredrickson, 1998, 2001)は、ポジティブな感情は人の思考-行為レパートリー(例えば、闘争反応に有効な、注意、認知、思考、行動などの可塑性、創造性、柔軟性など、あるいは身体的資源、社会的資源、心理的資源などの個人的資源)を狭くするネガティブ感情と違って、レパートリーを拡張させ、その結果として永続的な個人資源の形成を促し、このような個人資源の形成がさらに人々の変容をもたらした結果、さらにポジティブな感情の経験の機会が増大するという上向きの螺旋を生み出すという拡張-形成理論(broaden-and-build theory)を提唱した。(p.72)

『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』

※Fredricson, B. L. 1998 What good are positive emotions? Review of General Psychology, 2, 300-319.
※Fredricson, B. L. 2001 The role of positive emotions in positive psychology : The broaden-and-build theory of positive emotions. American Psychologist, 56, 218-226.

ここでポジティブな循環について触れられていますね。

これを逆向きに考えるなら、ネガティブ感情は思考-行為レパートリーを縮小させ、ポジティブ感情を経験する機会が減少するというネガティブ循環も想定できそうです。

悪循環にはまり込んでいる状態。

このネガティブ循環(悪循環)を断ち切るという意味では、認知行動療法(CBT)が1つの解決策ということになると思います。悪循環を明らかにして、それを断ち切るような対処法を身につけるという発想ですからね。

例えば、認知再構成法では、ポジティブ感情状態の方が思考が柔軟になり、認知の幅を広げやすくなるのかもしれません。問題解決法もそうですね。効果的な解決法を見つけやすくなるかもしれません。

困った状況を解決するためのアイデア出しとかで、実現可能性とかそういうのを無視して、どんなものでもいいから出しまくっていると、途中で楽しくなって思いもよらないアイデアが出てくることもありますよね。

『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』には、ポジティブ感情の機能として興味深いことがさらに書かれています。

それは、心理的・生理的反応の回復効果です。

実際の研究とかは本を読んでもらうとして、ポジティブ感情には「元通り効果」という機能があることが指摘されているようです。

ポジティブ感情の機能のひとつは、ネガティブ感情によって高められた、あるいは高められると予想される心理的緊張や生理的覚醒を素早く元に戻すundoing効果や軽減効果にあると考えられる。またこうした軽減効果、undoing効果は必ずしもネガティブ感情下にある場合にポジティブ感情を与えた時のみでなく、あらかじめストレス事態が予想される場合に先行して与えることでも有効である可能性があると考えられる。(p.78)

『ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性』

これについては、少し疑問があります。紹介されていた研究では、ポジティブ感情、中性感情、ネガティブ感情の3条件で比較していますが、ポジティブ・中性感情で効果が見られているそうです。

ということは、ポジティブ感情にundoing効果や軽減効果があるのではなく、ネガティブ感情にそれを阻害する機能があると考えた方がいいような気がします。

もし、「ポジティブ感情 > 中性感情 > ネガティブ感情」の順にundoing効果や軽減効果があるなら話は別ですが、「ポジティブ = 中性」なら違っているのはネガティブ感情だけですからね。

中性感情時よりも高い効果があるなら、ポジティブ感情にundoing効果や軽減効果があると言えますが、同じなのだとしたらネガティブ感情が自然回復を阻害していると見た方が良さそうです。

なぜポジティブ感情があるのか?

ここまで見てきたようなポジティブ感情の機能や影響から個人的に考えるポジティブ感情が存在する理由は、次のようなものです。

ポジティブ感情は思考-行為レパートリーを拡張させ、柔軟性を上げることによって、問題発生時にその問題の解決可能性を高め、生存確率を上昇させる。

ポジティブ感情が進化の過程で淘汰されずに残っているということは、それは生存に有利であることを意味するという前提がここにはあります。

短期的には効果的でも長期的には逆効果になることはたくさんあります。短期的に悪影響があったとしても、長期的により大きな効果を生むという選択をした方がいい場面もたくさんあります。

例えば、小さいエビをそのまま食べるより、そのエビを使って大きな魚を釣った方がいい、みたいな感じです。常にこれが成り立つわけではないですけどね。

柔軟に考えられること、行動のレパートリーが拡大することは、長期的な視点に立ったときに有利に働く可能性があります。だからこそ、そのような機能を持っているポジティブ感情が残り続けているということなのかもしれません。

科学的にどうなのかというのは、今後の研究に期待したいところです。