この児童・生徒はなんでこんなことをするんだろう?
こんなことを考えて、答えが出ず、どうすればいいかもわからないことはありませんか?
行動分析学を使えば、児童・生徒の行動を理解することができます。それだけではなく、児童・生徒の行動を変えることもできるんです。
今回は行動分析学を使って行動を理解して、行動を変えることについて説明します。
行動分析学とは?
行動分析学は行動を扱う学問領域です。その目標は「行動の予測と制御」なので、行動を理解すること、行動を変えることについて強力なツールとなります。
学習心理学の中でも行動分析学の知見が説明されているため、「行動分析学」自体を知らなくても、その内容について知っている人はいると思います。
例えば、パヴロフの犬で有名なレスポンデント条件づけ(古典的条件づけ)も行動分析学に含まれます。オペラント条件づけ(道具的条件づけ)も行動分析学の範囲です。
行動分析学では、行動を中心にして、その前後を含めて分析を行います。その分析は機能分析やABC分析と呼ばれます。
この分析の枠組みに使って、多くの行動を分析していきます。これを機能分析/ABC分析と呼びます。
行動分析学を使って行動を理解する
どんなに理解不能に思える行動でも、行動分析学を使えば理解可能なものにすることができます。もちろん、現在も発展中の学問なのですべてを説明することはできませんが、それでもかなり多くの行動を説明することが可能になっています。
行動分析学を使って行動を理解する枠組みは、上でも紹介した機能分析(ABC分析)が中心になります。
そこで重要な役割を果たしているのがオペラント条件づけです。
オペラント条件づけとは?
オペラント条件づけは、結果によって制御される行動の学習です。
行動の原因を考えるときに、その行動の前に何があったのかを重視するのが一般的ですが、オペラント条件づけは結果の方が重要であることを明らかにしています。
どのような結果があったのかによって、将来の行動が影響を受けるという考え方です。これは実験的に証明されていることでもあるので、単に「そう考えている」というわけではありません。
オペラント条件づけでは、行動が増える2つのパターンと、行動が減る2つのパターンが明らかになっています。
行動が増える「強化」
行動分析学では、行動が増えることを「強化」と呼んでいます。
例えば、手を上げる行動が増えたとしたら、「手を上げる行動が強化された」と表現します。
その強化には2種類あり、それぞれ「正の強化(提示型強化)」、「負の強化(除去型強化)」と呼ばれています。
正負は何かが付け加わるか、取り除かれるかを表しています。「正」はプラス、「負」はマイナスと考えるとわかりやすいと思います。
いつ付け加わる・取り除かれるかというと、それは行動の直後(60秒以内)です。オペラント条件づけが、結果によって制御される行動の学習と定義されていることを思い出せば、納得できますよね。
強化は行動が増えることなので、2種類の強化をまとめると次のようになります。
- 正の強化(提示型強化):行動の直後に何かが付け加わることでその行動が増える
- 負の強化(除去型強化):行動の直後に何かが取り除かれることでその行動が増える
行動が減る「弱化」
行動分析学では、行動が減ることを「弱化」と呼んでいます。
例えば、暴力が減ったとしたら、「暴力(という行動)が弱化された」と表現します。
弱化には副作用があるため、その使用には十分な検討が必要になります。安易に使用すると、副作用によって別の問題が出てくることもあります。
- 行動自体を減らしてしまう
- 何も新しいことを教えたことにならない
- 一時的に効果があるが持続しない
- 弱化を使う側は罰的な関わりがエスカレートしがちになる
- 弱化を受けた側にネガティブな情緒反応を引き起こす
- 力関係次第で他人に同じことをしてしまう可能性を高める
『メリットの法則-行動分析学実践編』
これが弱化に副作用なんですが、教育の目標と相容れないことがわかると思います。
それでも弱化は存在しているので、弱化を乱用しないために、使用するとしても悪影響を最小限にするために、弱化を知っておくことが必要です。
弱化は強化と同じように2種類あります。それは、何かが付け加わるタイプの「正の弱化(提示型弱化)」と、何かが取り除かれるタイプの「負の弱化(除去型弱化)」です。
「正」は何かが付け加わること、「負」は何かが取り除かれることを意味しています。
弱化もオペラント条件づけなので、行動の直後(60秒以内)にどうなっているかという点で、「正負」を分けています。
2種類の弱化をまとめると次のようになります。
- 正の弱化(提示型弱化):行動の直後に何かが付け加わることでその行動が減る
- 負の弱化(除去型弱化):行動の直後の何かが取り除かれることでその行動が減る
行動分析学を使った行動の理解の例
行動分析学を使って行動を理解するためには、具体的な行動について、その前後を含めて確認することから始める必要があります。
ある場面を切り取って、「先行事象-行動-結果」の枠組みで捉え直すということです。
例として、授業中のおしゃべり行動を使って説明します。
その児童・生徒が授業中におしゃべりをしているときを、その前後を含めて確認したところ、難しい課題が出されたときにおしゃべりが始まり、その直後に近くのクラスメイトからの反応があったとします。
それを機能分析(ABC分析)でまとめてみると、次のようになります。
これを一般的に理解すると、「難しい課題が原因」と言われますが、行動分析学では異なった視点を得ることができます。
オペラント条件づけは結果によって制御される行動の学習なので、おしゃべり行動の原因は結果である「周囲の反応」にあることがわかります。
もし「周囲の反応」がなければ、その児童・生徒はおしゃべりをしない可能性があるということです。
この場合、「周囲の反応」が付け加わっているので、「正の強化(提示型強化)」になります。
ただ、これは別の見方もできます。
難しい課題が出されたときにおしゃべりをすれば、当然難しい課題をやらないでいるということになります。つまり、難しい課題が取り除かれたと見ることもできます。
何かが取り除かれて行動が増えるのは「負の強化(除去型強化)」でしたね。
この例の場合、その児童・生徒のおしゃべりが、周囲から反応があることと、難しい課題をやらずにすんでいることによって維持されている可能性があるという仮説を立てることができます。
ここで立てた仮説を検証するには、実際に結果を変えてみる必要があります。それは行動を変えることに繋がります。
行動分析学を使って行動を変える
ここでも引き続き「おしゃべり行動」を使って説明していきます。
行動分析学を使って児童・生徒の行動をするとき、最初にすることは「どの行動をどのように変えるか」を決めることです。
授業中におしゃべりをする児童・生徒のおしゃべり行動を変えたいのであれば、それがどうなったらいいのかを考えます。
ただおしゃべりがなくなればいいのか、それとも別の行動をするようになってほしいのか。
別の行動をするようになってほしいとしたら、どのような行動をするようになってほしいのか。
おそらく、ただおしゃべりがなくなればいいと考える先生は少ないと思います。おしゃべりせずに、授業に取り組んでほしいですよね。
今回の例では、おしゃべり行動の維持要因として、周囲から反応があることと、難しい課題をやらずにすんでいることの2つが候補に挙がっています。
この維持要因を変えることができれば、おしゃべり行動を変えられる可能性があります。
先生の注目によっておしゃべり行動を変える
周囲からの反応は「正の強化(提示型強化)」と関係しています。見方を変えると、その児童・生徒は「周囲からの反応によって行動が影響を受ける」タイプであるのかもしれません。
ということは、「周囲からの反応」、言い換えると「注目」によって行動を変えられる可能性があります。
その注目が先生からの注目でもいいのであれば、その児童・生徒が授業に取り組んでいるとき(例えば、課題をやっているとき)に注目することによって、授業に取り組む行動が増えると考えられます。
「頑張ってるね」でもいいですし、「やってるね」でもいいので、とにかく声をかけることを試してみて、それで授業に取り組むようになれば性行です。
授業に取り組むようになれば、必然的におしゃべり行動は減っていくため、おしゃべり行動をターゲットにせずにおしゃべり行動を減らすことができます。
ここでは課題をやる行動を増やすという視点で、その状況を説明します。
難しい課題が出されたときに少しでも課題をやることがあれば、その瞬間を見逃さずに、課題をやっているときに声かけをします。
そうすることで課題をやることが増えたとしたら、「注目(周囲からの反応)によっておしゃべり行動が維持されている」という仮説が正しいことが証明されます。
それと同時に、「注目(周囲からの反応)によって行動を増やすことができる」ことも明らかになります。これはとても重要な情報で、その児童・生徒の他の行動を理解したり、変えたりするときに役に立ちます。
別の方法で難しい課題から逃げることでおしゃべり行動を変える
今回の例では、おしゃべり行動をすることで難しい課題をやらずにすんでいることも、おしゃべり行動の維持要因の仮説として想定されています。
これは「負の強化(除去型強化)」によるものですね。
「負の強化(除去型強化)」を使っておしゃべり行動を変えるためには、難しい課題から逃げる別の方法を身につけてもらう必要があります。
例えば、その児童・生徒が課題を終わらせたいと思っているけど、難しすぎてそれができない場合などに使える方法です。
それは難しい課題、つまりできない課題がなくなればいいという発想です。できない課題をなくす方法として、その課題をできるようにするというものがあります。
難しい課題を出されたときに、それができなくて嫌になってしまう児童・生徒がいます。それができれば課題をやるけど、できないからやらないというタイプです。
その場合、先生に「わかりません」と言うことができれば、教えてもらって課題ができるようになります。「わかりません」でなくても、先生に教えてもらえるようにする行動であれば何でもOKです。
そうやって教えてもらえれば、「難しい課題」は「難しかった課題」に変わり、課題をやって「課題ができる(終わる)」という結果によって、「課題をやる行動」が維持されるようになるかもしれません。
これも仮説検証の枠組みで行うことなので、仮説が正しければうまくいきますし、仮説が間違っていればうまくいきません。
うまくいかなかったのは失敗ではなく、仮説が間違っていることを発見したということなので、その情報を使って新たな仮説を生成することができます。
最後に
行動分析学は一般的な理解とは異なる見方をするので、少しわかりにくいと思います。
でも、今回見てきたように、行動の理解から行動を変える方法を直接的に導き出せることが最大の特徴の1つと言えます。
そして、実行可能な具体的な方法を考え出すことができることも特徴の1つです。
授業中におしゃべりをしている児童・生徒を「やる気がない」と理解しても、具体的な対応には繋がりません。
でも、行動分析学を使って「周囲からの反応でおしゃべりが維持されている」、「難しい課題をやらずにすんでいるからおしゃべりが維持されている」と理解できれば、その理解に基づいて対応を導き出すことができます。
今回の例ではこの2つの仮説を取り上げましたが、どの児童・生徒でも、どの場面でも、これらが成り立つわけではありません。
児童・生徒によって行動の維持要因は異なり、同じ児童・生徒でも場面によって維持要因が異なっていることもあります。
行動分析学を使って行動を理解し、行動を変えるには、個別の行動について分析し、仮説を立て、検証するというプロセスが重要になります。
そうすることによって、今までどうすることもできなかった児童・生徒の行動を変える方法を見つけ出すことができるようになります。
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